5. アーラム大学訪問2日目&帰国

 さて、1月23日(金)アーラム大学2日目、海外研修もこれが実質最終日です。
 まず、「日本紹介」クラスの授業を参観しました。三島由紀夫の「潮騒」を教材にした討論でしたが、 教官は日本史教授で日本研究所長のCharles L. Yatesさんでした。もちろん中身は全然わかりませんでした。
 その後は図書館に戻って、図書館のオートメーションと電子資料について、 Information Technologies and Reference LibrarianのNeal BakerさんとAmy Bryantさんのお二人と会見しました。
 2年前の組織改編により、コンピュータ室のコンピュータ50台の管理が図書館からComputing Servicesに移ったため、 Computing Servicesの負担が増えたとのことでした。
 また、Information Servicesの3部門とは別に、今年 “Web Team” という部署が設置され、 大学のホームページ作成とその指導などを行っているとのことでした。ちなみにこの“Web Team” は、 Information Servicesと大学の広報室の二つに管理されているそうです。
 今や大学のホームページというのはキャンパスの縮図。一度ホームページを作ればそれで終わりでなく、大学内の組織や入試情報など、 大学が常に変化しているのに連動して、ホームページも常に変わらなければならないと、Nealさんは話してくれました。
 電子資料については、最近電子ブックが増えてきたが、電子ジャーナルに比べると不評だそうです。 電子ブックを提供していたある会社は倒産したそうですし、電子ブックを見た学生も、この本(冊子体)はどこにあるのか、 どうやって印刷できるかなどと質問してくるそうです。ちなみにアーラム大学では5,000タイトルの電子ブックが見られるそうです。
 日本ではそれほど電子ブックははやっておらず、いまひとつよくわかりませんでしたが、普通の本と同様に「貸出」機能があり、 貸出期間中は他の利用者は本文を見ることができないようです。
 続いて、アーラム大学図書館の特別資料室を、ここのアーキビストであり史学教授であるThomas D. Hammさんに案内していただきました。 主なものはFriends Collection(クェーカー資料)と大学の歴史資料です。
 Friends Collectionはアメリカでも誇れる世界レベルのクェーカー資料ということで、図書12,000冊の他、日記や手紙など多数所蔵しているそうです。
 また、大学の歴史資料としては、1847年創立当時の椅子や、その領収書もあるなど、ありとあらゆるものが残っているそうです。
 クェーカー教徒はよく記録し、そしてものを大事にして、あまり捨てないから、このように資料がたくさん残っているのだと、言っていました。
 アーキビストにとっては、何を保存するかというより何を捨てるかが問題であり、また、保存するだけでなく、保存したものをどう残し、 利用者に提供するかが問題と話していましたが、本学でもミュージアムと統合して新しい組織になる図書館としては、 常に頭に入れて置かねばならないことでしょう。
 この資料室への来室者数は年間1,200~1,300人で、その1/3がアーラムの神学校の学生、1/3がクェーカー研究者、 そして残りの1/3が自分の家系を調べに来るクェーカー教徒とのことで、自分の家系を調べることは今アメリカで2番目に多い趣味だそうです。 ちなみに1番は切手収集だとか。

特別資料室
特別資料室所蔵の家具や絵画

 お昼を昨日と同様アーラムの図書館の方々と学内のカフェで取った後、午後はまず、日本研究の日本人教官Kumiko Satoさんによる 「アジア・シネマ」クラスの授業を参観しました。
 その後、今度は自然科学系の分館であるWildman Science Libraryを案内していただきました。 場所は同じキャンパス内の割合近くに位置していました。
 対応してくれたJeremy R. GarritanoさんはScience Librarianでしたが、1年間の客員(臨時)職員とのことで、職員は他に事務員が一人、 学生アルバイトが15人(週150時間)とのことでした。
 Jeremyさん一人で自然科学分野の選書、レファレンスのほか、授業での情報リテラシー教育を担当しており、 新学期には24クラス(授業)に教える時もあるそうです。
 なお、予算は自然科学系の各コースから配分されるそうです。
 ところで、ここでJeremyさんから司書の位置づけの話を聞くことができました。
 Librarian(司書)はFaculty(教官)とほぼ同じ格付けに当たり、Staff(事務職員?)ではない。LibrarianがFacultyになるには、 修士の学位が必要。だから、教官と同じような専門職の位置づけであるというような話を聞き、先のCMUでもここアーラムでも、 司書は皆一人一人個室を持っていることがようやくわかった気がしました。

Wildman Science Library
Wildman Science Library 正面

 次に、図書館と同様Information Servicesの一部門であるComputing Servicesの部門長Thomas E. Steffesさんとの会見でした。 Computing Servicesも図書館の1階部分に位置しておりました。
 学内の各種サーバ類がありましたが、図書館システムのサーバはここにはなく、PALNIの本部にあるそうです。
 学生が自由に使えるコンピュータ室にはWindows 20台、Macintosh 10台がありますが、この部屋は24時間利用可能で、図書館の正面玄関とは別に、 IDカードで入退室できる入口が設置してありました。
 学内のコンピュータ約500台を4年ごとに更新しているが、買い取りのため、古いコンピュータの処分に苦労しているとのことで、 一室には古いコンピュータが山のようにうずたかく積まれていました。
 古いコンピュータは、リユース、リサイクル、売り払い、チャリティーなど、修理して使えるものは使い、売れる物は売り、 それでも残ったら無料で差し上げるのだそうです。今や捨てるのにお金がかかることからも、このように、 これからはコンピュータのライフ・サイクルを考慮して購入する必要があると言っていました。

古いコンピュータの山
古いコンピュータの山

 また、ここにはヘルプ・デスク(受付カウンター)があり、個人所有のコンピュータの持ち込みもOKとのことでした。 このあたりもクェーカー思想の影響でしょうか。
 ソフトウェアも、以前は各部局で個別に購入していたが、今はここでまとめて購入しており、予算の節約にはなったが、 Computing Servicesの仕事が増えたとのことでした。
 さて、最後にThomas Kirk館長とまとめの会見でしたが、館長自身も夜や週末にレファレンス・デスクに出たり、 普段でも学生の相談に乗ったりしているそうで、いくら少人数だからとはいえ、そのサービス精神には頭が下がる思いでした。
 そんなことも関係しているのでしょうか、今回の訪問中に、Thomas Kirk館長自身がACRLのAcademic/Research Librarian of the Year を受賞したニュースを聞くことができ、こちらまでうれしい限りでした。恐らく、2年前にアーラム大学図書館が受賞したACRLの “Excellence in Academic Libraries Award” についても、この館長の影響が大きかったことでしょう。
 今アメリカでも少子化が危惧され、通常の学生とは違う、Part Time Student(働きながら大学に通う夜間部の学生、 学位を取るのに5-10年かかる)がアメリカではブームになっていて、アーラム大学でも生き残るためにPart Time Student を増やして運営を補っているとのことでした。
 以上で、2日間のアーラム大学の研修が終了しましたが、この日の夜は、今回我々の訪問を最初から最後までお世話いただいた日本研究教授 Gary DeCokerさんと、アーラム大学で働く若い日本人の日本語講師2人Chiemi Hanzawaさん、Nami Ujiharaさんの3人と夕食をご一緒しました。 ここではもう英語を使う必要がなく、大変助かりましたが、日本を離れて外国人に囲まれた中で活躍している2人を見ていて、 なんてすごいんだろうと、感心してしまいました。日本とは違う別世界に来て過ごした約一週間でしたが、何か夢の世界のような感じでした。

 1月24日(土)、いよいよアメリカともお別れです。研修期間中、常に頭から離れなかったことは日本へのお土産のことですが、 結局これといったものが買えず、最後まで来てしまったため、デートン空港へは早めに行ってお土産を買うことにしました。
 ところが早くに搭乗手続きをしたせいか、それともお土産を買いに搭乗口を離れていたせいか、 実は我々の乗る飛行機の搭乗口が変更になっていたことに気がつかないでいました。 出発時刻の30分前をかなり過ぎても搭乗口が開かずにおかしいと思っていたところ、空港関係者が我々二人を探しに来てくれたおかげで、 予定通りの飛行機に乗ることができました。
 恐らく構内放送で搭乗口変更のアナウンスがあったとは思いますが、英語に堪能でない我々には聞こえなかったのかもしれません。 あのとき乗り遅れても決しておかしくない状況だっただけに、今思えば、なかなかスリリングな旅行だったのかもしれません。
 デトロイトで成田行きの飛行機に乗り換えましたが、離陸直前に急病患者が出て出発が1時間半ほど遅れたため、成田到着が約1時間遅れましたが、 無事日本に帰国することができました。
 なお、帰りの飛行機の中で上映されていた映画を何気なく見ていたのですが、なんとあのフォーチュン・クッキーが絡む映画だったのです。 偶然とは言え、自分の中ではこの先の人生、本当にいいことがありそうな気がして、ますます嬉しくなってしまいました。
 以上で私の訪問記を終わりにいたしますが、この貴重な経験をこれからの仕事に少しでもいかせればと思っております。
 最後に、このような貴重な機会を与えてくださった平山学長、中嶋館長、岩井事務長を始め、尾中教官、研究協力課の方々、 そして快く送り出してくださった図書館の皆さん、現地でお世話になった皆さまに感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

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