4. 移動日&アーラム大学訪問1日目

 さて、1月21日(水)、今日はCMUのあるマウント・プレザントから次の訪問地、 インディアナ州のアーラム大学(宿泊するホテルはオハイオ州デートン)に向けての移動日です。
 前日の天気予報で雪が心配されたため、予定より1時間ほど早い朝8時に、CMUの職員Tracy Nakajimaさんに迎えに来ていただき、 ランシング空港まで車で送っていただきました。
 ところが思いの外順調に進み、ランシング空港にだいぶ早く到着したおかげで、地元航空会社の方の配慮もあり、 搭乗予定より1本速い便に変更できました。
 ここで時間だけでなく精神的にも余裕が出たためでしょうか、デトロイトでの飛行機乗り継ぎの際、 次の飛行機への搭乗手続きまで余裕があったこともあって、つい、乗り継ぎの人が出てはいけない出口からターミナルの外に出てしまい、 空港内へ戻れないことに気がついた時は、パニック状態、冷や汗たらたら、本当に焦りました。幸い、 警備員さんに事情を説明して入口を教えてもらいましたが、おかげで不必要な搭乗者の危険物チェックを受ける羽目になりました。
 オハイオ州デートン(Dayton)のホテルに到着すると、次の訪問先アーラム大学から、明日からの日程表と大学のパンフレットが届いていました。 これを見てよく勉強しておくようにと言われているようで、明日からの訪問に再度身を引き締めなおす思いでした。

 1月22日(木)、朝7時半に、アーラム大学のProgram Associate, SICE programのAmanda Shawさんが車で迎えに来てくれました。 Amandaさんはデートンの近くからアーラム大学のあるインディアナ州リッチモンド(Richmond)に通っているとのことでしたが、 日本研究プログラムの助手のため日本語で会話ができる方で、大変助かりました。
 ここで、アーラム大学の概要を説明します。
 1847年フレンド会(クェーカー派)によって創立されたリベラル・アーツ・カレッジ(教養課程の4年制私大)で、学生数は約1,200人です。 留学生が多く在外教育プログラムが盛んで、日本研究プログラムもあり、岩手県でも在外教育プログラムを毎年実施するなど、 岩手とは交流が深いものがあります。
 なお、リッチモンドは人口約35,000人、CMUとは違い雪もなく、寒さも盛岡と同じくらいに感じました。
 さて、アーラム大学第1日目、最初に館長のThomas Kirkさんと会見し、訪問の目的や本学の概要、 そしてアーラム大学図書館の概要についてやりとりしました。
 4月からの国立大学法人化に伴い、本学の図書館も組織改編され、総合情報処理センター、ミュージアムと統合され、 情報メディアセンターの一部門となる予定ですが、実はアーラム大学も2年前に組織改編し、図書館は、 Instructional Technology & MediaとComputing Servicesとともに統合され、Information Servicesの一部門になったとのことでした。
 本学の場合、情報メディアセンター長が図書館長を兼任する予定ですが、アーラム大学も図書館長とInformation Servicesの長(Coordinator) が同一人物で、偶然とはいえ何か共通性を感じました。
 また、アーラム大学図書館はインディアナ州にある私大図書館26館の連合体(Private Academic Library Network of Indiana = PALNI)の一員で、 購入雑誌のコンソーシアムを組んだり、図書館システムに共通したもの(Aleph)を導入するなど、単なる協力協定以上の取り組みに驚きました。

Lilly Library正面
Lilly Library正面

 さて、アーラム大学には本館のLilly Libraryと分館のWildman Science Libraryが同じキャンパス内にありますが、 引き続き館長にLilly Libraryの館内を案内していただきました。
 職員数はLibrarianが7人、Staffが5人、そして学生アルバイトが45人(一人週10時間)です。
 蔵書冊数は約40万冊、購入雑誌(冊子体)は約1,000タイトルと本学よりもだいぶこぢんまりした図書館ですが、 電子ジャーナルは約11,500タイトルと本学の3倍以上です。
 面白く感じたことは、学生の芸術作品を図書館が購入して館内各所に展示していたことです。また、無線LANを配備して、 ノート・パソコン10台の館内貸出を今週から始めたところだと言っていました。
 キャレル・デスクや研究個室の利用は基本的に1学期間の利用と聞いて、少々驚きました。また、集密書架は電動ではなく手動式でした。
 なお、蔵書の一部に “Uyesugi Japanese American Collection” というものがあり、それについて次のような話を聞かせてもらいました。
 第二次世界大戦中、アメリカで日本人が捕虜収容所に入れられたが、大学に行くという理由であれば収容所から出ることができた。アーラム大学は、 いろいろな民族を認め合う平和主義のクェーカー教であることから、捕虜収容所にいた日本人20人くらいを受け入れ、 そのうちの一人が後にアメリカ人と結婚して眼科医になった。その後、アメリカ政府は戦時中に捕虜とした日本人に賠償金を支払ったが、 彼はもらったお金をこの図書館に寄付し、戦時中の収容所・収容者に関する資料を購入して欲しいと希望されたのだと。
 アーラム大学と日本とのつながりが、図書館にもあったことを知って嬉しく思いました。

Edward T. Uyesugi
寄贈者 Edward T. Uyesugi のプレート

 館内をざっと案内していただいた後、今度は受入・目録担当者Technical Services LibrarianのJanet Wagnerさんらとの会見でした。
 やはりこちらでもOCLCを利用していましたが、蔵書の登録率は100%ではなく、少しずつ遡及入力をしているようでした。
 午後には日本人教官Chisato Murakamiさんによる「日本語・日本文学」クラスの授業を見学しました。翻訳についての討論でしたが、 すべて英語のため、ほとんどわかりませんでした。学生は20人ほどでしたが、大概の授業はこんな感じだと言っていました。

授業風景
「日本語・日本文学」クラスの授業風景

 再び図書館に戻って、今度はレファレンス担当者Reference LibrarianのNancy TaylorさんとChristine Larsonさんとの会見でした。
 アーラム大学では、大半の授業科目で最低1回は司書が図書館利用法、情報リテラシー教育のようなものを教えているとのことでした。 しかも司書と教官が協力し合っており、学期の始まる前に図書館から教官に、授業内容や必要資料などを聞いたり、 時にはシラバス作成段階から司書がその授業計画に関わることもあるそうです。
 クラス単位で指導を受けた学生は、その後数人のグループ単位で、あるいは個人個人で図書館に来て、 さらに指導を受けることもあるということで、一人の学生にとってみると、 4年間のうちに基本的なことから専門的なことまで学べることになるとのことでした。
 このような活動のせいか、卒業後、博士号を取得する学生の割合が、米国高等教育1,302機関中アーラム大学は26位だそうですし、 今回2日間通訳してくれたDavid Henryさんはアーラム大学の卒業で、現在ミシガン大学の博士課程在籍中ですが、大学院では、 他大学出身者に比べて研究の仕方を修得済みで、大変助かったと言っていました。
 実際、このような学生に対する情報リテラシー教育が評価され、アーラム大学図書館は、2年前に米国大学図書館協会 (Association of College & Research Libraries = ACRL)から “Excellence in Academic Libraries Award” を受賞する栄誉を得ています。
 ちなみにこのような司書による情報リテラシー教育は1965年頃から行っており、全米でも先駆け的な活動だったそうです。
 レファレンス担当は会見したこの二人ですが、小さい図書館のため、実際には他の司書の応援を受けているとのことで、例えば、 土日(午後からの開館)や、平日も夜10時までレファレンスの受付をしているが、 それらの時間帯には館長も含めて6人で交代しているとのことでした。
 決して夜や週末に働きたいわけではないが、学生が図書館に来るのは夜や週末に多いから司書がいなければならないのだ、と言っていましたが、 今まで私たちの意識は、どちらかというと司書である前に公務員であることの方が先だったのではないか、反省しなければと感じました。 しかし、少なくとも本学の場合、現在の平日5時までのレファレンス受付を、仮に開館時間中ならいつでも受付する(土日も、また平日も夜8時まで) とした場合、学生アルバイトではなく司書がいなければならないほど夜間や土日に学生が利用するかは、疑問が残ります。
 さて、続いては図書館と同様Information Servicesの一部門であるInstructional Technology & Mediaの部門長Wes Millerさんとの会見でした。
 Instructional Technology & Mediaは図書館の1階部分に位置しており、図書館の視聴覚資料室といった感じでした。利用は室内での視聴のみです。
 また、この部門は、教官に対して授業におけるメディアの効果的使用方法を助言、サポートしているそうです。実際に、 講義等で使用されるプロジェクター付きの階段教室でデモンストレーションをしていただきました。
 この後、当初の予定には全く入っていなかったリッチモンド市内の公共図書館 Morrisson-Reeves Libraryに急遽案内していただけることになりましたが、 これは本当にラッキーでした。直前のアポにもかかわらず、Reference ServicesのDoris Ashbrookさんは快く我々を案内してくれました。

Morrisson-Reeves Library正面
Morrisson-Reeves Library正面

 この図書館は1864年創立で、州内でも最も古い公共図書館の一つだそうで、現在の図書館にも当時のものがあちこちに残っていました。
 入って最初に目に付いたのは児童図書室の派手な飾り付けです。本棚の上や天井には動物のぬいぐるみや鯉のぼりがあったりして、 思わず微笑みたくなるような明るい雰囲気でした。

自動図書室
児童図書室

 この図書館で私が一番驚いたことは、市民向けのパソコン講座を各種多数開講していたことです。今、 大学で学生に対する情報リテラシー教育が話題になっていますが、公共図書館でもこれほど盛んだとは思いもしませんでした。 なんと一ヶ月に10回から15回くらいも開講しているのです。開講講座もコンピュータ・インターネット入門、Windows入門、インターネット検索、 スキャナー、グラフィック・ペイント、電子メール、ワード、エクセル、パワーポイント、アクセス、さらにはIndiana’s Virtual Library、 そしてWEBPAC(Morrisson-Reeves LibraryのWebサイトから検索できるすべてのもの)まで、実に14種類もあるのです。しかもすべて無料です。
 日本ですと公民館などでこのようなパソコン講座を開講することはあっても、いくらかの受講料を徴収しているのが、普通ではないでしょうか。
 ここの図書館でもう一つ驚いたことは、視聴覚資料だけでなく、視聴覚機器も貸出していることです。ビデオデッキ、カセットデッキ、 CDプレーヤー、DVDプレーヤーだけでなく、ポラロイド・カメラ、マルチメディア・プロジェクター、オーバーヘッド・プロジェクター、 スクリーンなどまでその種類の多さにもびっくりしました。しかもすべて無料です。(ただし借りる時に保証金が必要ですが、 壊さずに期限内に返せば全額戻ってきます。)
 この図書館へ行く前はとても軽い気持ちで行ったにもかかわらず、こんなにも図書館サービスの本質的な違いを感じるとは思いもしませんでした。
 こうしてアーラム大学第1日目が無事終わりましたが、夕食はAmanda ShawさんとChisato MurakamiさんとDavid Henryさんの3人とご一緒しました。 今日のメンバーは皆日本語がわかる方だけに会話も弾みました。ちなみにChisatoさんとDavidさんは夫婦だそうで、 日本人の奥さんがアメリカで働き、アメリカ人の旦那さんが日本文化を研究しているというおもしろい関係でした。

←前へ||次へ→
このページの先頭に戻る
目次へ