著作権セミナー参加報告
図書情報係 浅野 秀明
1.はじめに
この度、文化庁、北海道教育委員会主催による、平成15年度、北海道・東北地区著作権セミナーに
参加させていただきました。
このセミナーは、「著作権制度の初歩を学びたい者を対象と」し、「著作権に関する基礎的な理解を深め、
もって著作権制度の知識や意識の向上を図ることを目的」としているものです。講義内容は、基礎から実務レベル
までと幅広いものでした。
第1日目は文化庁作成のテキストを用い、3名の文化庁講師の方による著作権制度の概要についての講義が
行われました。
第2日目は日本音楽著作権協会とコンピュータソフトウェア著作権協会、両団体の講師の方により、団体の
活動内容と実務に関する著作権業務の実際について解説が行われました。その後、文化庁講師により、事例研究と
質疑応答が行われました。
会場は二百名近いたくさんの参加者が集まり、著作権制度への関心の強さを感じると共に、それぞれの職場に
おいて著作権制度への理解が求められていることを実感しました。
この報告では、今回のセミナーに参加し、学んできたことの中から最も基礎的な点について、簡単にまとめて
みたいと思います。
2.著作権制度の概要
(1)「著作権」という用語は様々に分けて使用されます。
著作権制度の概略を表にすると下のようになります。
┌─────┐ │知的財産権│ └─────┘ ┌──────────┼───────────┐ ┌───┐ ┌─────┐ ┌───┐ │著作権│ │産業財産権│ │その他│ └───┘ └─────┘ └───┘ ├─────────────────────┐ ┌───────────┐ ┌─────┐ │著作者の権利(著作権)│ │著作隣接権│ └───────────┘ └─────┘ ┌────┴──────┐ ┌────┴──────┐ ┌──────┐ ┌────────┐ ┌──────┐ ┌──────────┐ │著作者人格権│ │著作権(財産権)│ │実演家人格権│ │著作隣接権(財産権)│ └──────┘ └────────┘ └──────┘ └──────────┘
「著作権」と言った場合、どの部分を指しているかを考える必要があります。
(2)著作権は無方式主義を採用しています
↓
(3)著作物・・・何でも創作すれば著作物になるわけではありません。
著作物の定義は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(第2条第1項第1号)
であり、これを全て満たしていないと著作物にはなりません。
定義から次のようなことがわかります。
上の著作物の定義に入るものでかつ日本国民が創作したか、最初に日本国内で発行されたか、条約により保護される著作物かのいずれかに該当する場合、保護の対象となります。
(4)著作者・・・創作した人すべてが著作者になれるわけではありません。
著作者の定義は「著作物を創作した人」(第2条第1項第2号)です。
よって、
↓
誰でも著作物に該当するものを創作すれば著作者となり、創作した時点で権利が発生(無方式主義による)し、権利保護がされるということになります。
例外1. 委託した場合
委託して作成された著作物については実際に著作物を創作した受託者の方が、著作者となります。
(→委託者がどんなに指示を出したり、費用をたくさん出したりしても、著作者にはなれません。)
例外2. 法人著作(職務著作)の場合
以下の要件を満たす場合、個人が創作したものであっても、法人が著作者となります。
(5)一身専属の権利と譲渡可能な財産権とがあります。
一身専属の権利として著作者人格権が挙げられます。
著作者人格権には次の三つの権利があります。
著作者人格権の保護期間は「生存している期間」です。ただし死後も原則として著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならないという文がありますので、
実質的にはずっと守らなければならないと言えます。
なお、人格権としては、実演家人格権というものもあります。
財産権は譲渡可能なので、譲渡された人は著作権者となります。保護期間が切れるまでは、著作者の死後も相続した者が著作権者となります。
これらのことから、ある著作物に対する著作権と一口に言っても、著作者人格権の権利者(原著作者)と財産権を持つ者としての著作権者は別々になることがわかります。
(6)権利の制限
著作権法によって著作者の権利は保護されていますが、それによって、著作物を利用する際に全て権利処理が必要なわけではありません。
30条から49条までを中心に著作権を制限する「権利制限規定」と言われる規程があります。この中には、私的使用のためのコピー(第30条)や、図書館等でのコピー(第31条)等、
様々な場合があります。これらについてはそれぞれ内容が細かく規定されています。例えば図書館に関するものであっても、公共図書館と大学図書館とでは権利が制限されるものが
異なる場合があります。また、平成16年1月1日より改正されるものもあり、それぞれの権利の制限については、1つ1つ確認することが必要となります。
ただし、この権利の制限についてはあくまで例外的なものであり、権利の制限をしているからこそ、許諾等の権利処理をしなくとも利用できるという性質のものです。よって、元々
著作権が無いものと考えたり、権利の制限に該当する行為を利用者の権利であるとはき違えるようなことがないように注意する必要があります。
以上が著作権制度の本当に基礎の部分となります。もちろんこれらの部分にも、詳しく見ていけば例外や細かい権利等があり、それらを網羅するには別途、著作権法の図書や 判例等に当たる必要があります。
3.公衆送信権について
この他、近年注目されてきているのが、インターネット利用にあたって関係してくる公衆送信権という権利です。
元々公衆送信権とは「著作物を公衆向けに送信することに関する権利」(第23条)というもので、著作権(財産権)の1つになります。これは公衆向けの送信であれば、あらゆる
送信形態が対象となります。「あらゆる」ですのでテレビ等の「放送」はもちろんのこと、インターネット、FAX、メール等までもが対象となります。
テレビ等の「放送」に関しては、個人で放送局を開設することはまずないと思います。
しかし、インターネット等に関しては個人でホームページを開設する場合や、多数の人にメールで一斉送信する場合も多いと思います。これらに関しては基本的な公衆送信権の他に、
次のような考え方が関わってきます。
これらの状態になっていると、各著作物について許諾、権利使用料の支払いといった権利処理が必要となります。
よってメールを1対1で送信し合っている場合は公衆送信権には該当しませんが、どちらか一方がメールで他人の著作物の送信を依頼し、もう一方がそれに応えて送信すれば
自動公衆送信に該当します。これはFAXでの送信についても同様となります。
「送信可能化」という場合は、インターネットにおいてサーバに著作物をアップロードした場合などが考えられます。この場合、まだ誰も著作物をサーバからダウンロードして
いなくても、アップロードした以上は著作物を送信したものと同様に考え、権利侵害をしたことと同じになります。
なお、サーバにアップロードしたことに伴って生じる、サーバに対する著作物のコピーについては公衆送信権とは別に、コピーをしたことについての権利処理が求められます。
またインターネットの場合、作成したページ中の一部分についてのみ、他人の著作物を貼り付けたものがあったりしますので、注意が必要です。この場合、一個一個の原作者に
ついて権利処理をする必要があります。また、他人が作成したページを利用することを考えて権利処理を行う場合には、権利処理をした相手がそのページの全てを作成したかどうか
確認する必要があります。もし、権利処理をした相手が、他人が作成した画像等の著作物を利用していた場合には、原著作者に対する権利処理が必要となります。
そのほか、リンクについての問題があります。リンクを貼る行為自体は著作権法的には何ら問題はありません。(リンクは著作物には該当しません。)ですから、リンクを貼る際に
許諾を得るという行為は著作権法的には必要ありませんが、ネチケットとして行われているものです。
ただし、フレームリンク(自分の作ったページのフレームの中に、他人が作成したページを表示させるようにリンクすること)は著作権法違反となります。これは自分のページの
中に他人のページを取り込んで利用することになりますので、他人が作成した画像等を無許諾で利用することと同じ行為になります。
4.おわりに
今回のセミナーを受講して、まず基本用語をしっかりと理解することの大切さを実感しました。例えば前にも述べたように「著作権」、「著作者」といった日常理解している つもりで使っている基本用語であっても、様々な意味が含まれています。これらを1つ1つしっかりと理解しながら、著作権制度についての理解を積み上げていく必要があると思います。参考文献