氏 名 | きたむら こうじ 北村 浩二 |
本籍(国籍) | 秋田県 |
学位の種類 | 博士 (農学) | 学位記番号 | 連研 第547号 |
学位授与年月日 | 平成23年9月26日 | 学位授与の要件 | 学位規則第5条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 寒冷圏生命システム学専攻 | ||
学位論文題目 | 水田土壌において嫌気的プロピオン酸酸化に関わる栄養共生細菌とメタン生成古細菌に関する研究 (Syntrophic bacteria and methanogen involved in anaerobic propionate oxidation in rice paddy soil) |
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論文の内容の要旨 | |||
水田土壌は温室効果ガスであるメタンの発生源の一つであり、 水田のメタンは主に酢酸及び水素からメタン生成古細菌により生成される。 その水素は95%以上がプロピオン酸酸化細菌により供給されるが、 嫌気的プロピオン酸酸化はメタン生成古細菌が水素を低分圧に保つことで初めて進行するため、両者の関係は栄養共生と呼ばれている。 しかしながら、水田土壌から栄養共生プロピオン酸酸化細菌が分離、記載された例は無く、 その詳細な生態は不明である。 本研究ではこれらの背景を踏まえ、水田土壌を起源とするプロピオン酸集積培養の解析と プロピオン酸酸化に関わる細菌および古細菌の分離と生理・生化学的性質の解析、 水田土壌に生息する栄養共生プロピオン酸酸化細菌の経時的な計数および優占種の推定を行い、 水田土壌の嫌気的プロピオン酸酸化に関わる微生物群の生態について考察した。 本研究ではまず、水田土壌を接種源とし、プロピオン酸を基質として安定なプロピオン酸酸化系を確立し、その解析を行った。 PCR-DGGE解析により集積培養液にはプロピオン酸酸化細菌と推定される Pelotomaculum の他に、 Desulfomicrobium、Sphingobacteriaceae の細菌が優占し、 古細菌としては Methanospirillum および Methanosaeta が優占していたことが示された。 集積培養液から169菌株、FR-3菌株、SR-20菌株の3種類のメタン生成古細菌を分離したが、 このうち169菌株は16S rRNA遺伝子配列に基づく系統解析、生理・生化学・形態学的特徴が既存の菌株と異なっていたため、 新種 Methanobacterium kanagiense として提案し、記載した。 FR-3菌株は Methanobacterium formicicum FR-3菌株として、 SR-20菌株は Methanospirillum hungatei SR-20菌株として同定したが、SR-20菌株は蟻酸利用性を持たず、新種である可能性も示唆された。 集積培養液から栄養共生プロピオン酸酸化細菌の分離を試み複数の方法を検討したが、純粋化には至らなかった。 しかし集積培養液に共存する細菌として Bacteroidetes bacterium 4F6B菌株、 Synergistaceae bacterium 4F6E菌株、Bacteroidetes bacterium 6E菌株、 Desulfomicrobium sp. 7A菌株の純粋分離に成功した。 4F6E菌株は Synergistaceae 科の新規細菌株であることが示され、新属を形成する可能性も示唆された。 集積培養液から分離した共存細菌はいずれもプロピオン酸酸化経路の中間代謝物を増殖基質として利用したため、 プロピオン酸酸化に間接的に関与していると推察された。 共存細菌の基質利用性に基づき、新しいプロピオン酸酸化系の代謝モデルを提案した。 水田土壌に生息する栄養共生プロピオン酸酸化細菌のMPN-PCR-DGGEを用いた経時的計数および優占種の推定を試みた。 水素消費パートナーの差異が与える影響を検討するため、計数には基質利用性の異なる3種類のメタン生成古細菌 (水素資化性 M. kanagiense 169菌株、水素/蟻酸資化性 M. formicicum FR-3菌株、 水素資化性 Methanospirillum hungatei SR-20菌株)を使用したが、計数値に著しい差異は観察されなかった。 4月から7月にかけて計数値は増加し、最大で約108cells/g乾土に達した後、8月以降は減少する傾向が観察された。 PCR-DGGE解析では、既知の栄養共生細菌の系統を網羅するプライマーをPCR増幅に使用することで 効率的に栄養共生プロピオン酸酸化細菌を検出することに成功し、 主に Pelotomaculum 属、Syntrophobacter 属、Smithella 属に近縁な配列が検出された。 δ-proteobacteria に属する配列は新規性の高い配列が多くを占め、 未分離の多様な細菌が栄養共生プロピオン酸酸化に関与している可能性を示唆した。 M. formicicum FR-3菌株で Smithella に近縁な配列が検出されなかった点を除いては、 水素消費パートナーの差異がMPN-PCR-DGGEで検出される配列の種類に与える明確な影響は観察されなかった。 集積培養のみならず、MPN-PCR-DGGEにおいてもプロピオン酸酸化に直接関与しないと考えられる細菌が検出されており、 プロピオン酸はこれまで想定されていたプロピオン酸酸化細菌とメタン生成古細菌との単純な二者共生関係だけではなく、 より複雑な系により代謝されていると考えられた。 |