氏 名 たかや さとる
?谷 了
本籍(国籍) 東京都
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第545号
学位授与年月日 平成23年9月26日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 潜水性魚食性鳥類の採餌生態
( Foraging ecology of piscivorous diving birds )
論文の内容の要旨

 近年注目されている魚食性鳥類の個体数の変動は,人為的な環境の改変が主要因と考えられており, 外来魚の移入や護岸工事などがその例として挙げられている. その増減は,カワウのような大型のものは増加傾向にあり,反対にカイツブリのような小型のものは減少傾向を示している. 本研究では,魚食性鳥類の中でも潜水性の採餌を行うもの複数種を対象にして,その給餌生態や採餌生態を調査した. また,種毎に適した繁殖地や生息地の条件を検討し,それぞれの種から得た知見を比較することで,個体数変動についても考察した.

 本研究で扱うのは,カンムリカイツブリとカイツブリ,カワウの3種である. カンムリカイツブリは,本研究で扱うものの中では,他2種の中間に位置する大きさの鳥である. 本研究では,レッドリストにも登録されているカンムリカイツブリを材料として,育雛期に野外観察を行った. カイツブリは,本研究で扱うものの中では最も小型の鳥で,本研究では育雛期の野外観察と飼育個体を用いた室内実験を行った. カワウは,本研究で扱うものの中では最も大型の鳥で,育雛期に調査を行ったが,本研究ではカイツブリ類2種に焦点を当てているので, カワウのデータは補足的なものとして扱った.

 カンムリカイツブリの野外観察では,国内初となる本種の年2回繁殖と同一つがいによる同一繁殖場所への毎年の飛来が確認された. 年2回繁殖の行われる条件は,餌も豊富で,安全に営巣でき,濁度が低く,同種他個体と争わずに済む小さな場所であり, 競争相手も少ない,ということだと思われる. カンムリカイツブリは,雛の成長に合わせてサイズ選択的な給餌をしており, このサイズ選択的な餌利用には,親鳥の採餌場所の選択が密接に関わっていた. 雛が食べることのできる餌のサイズには制限があり,その重要な要因は魚の体高だった. また,サイズとは別に給餌する魚種にも選択性が認められた. おそらく,育雛の初期には体高が低く飲み込みやすい小型の魚が重要な餌となり, その後に,重量のある大きな魚が重要になってくるのであろう.

 カイツブリの野外観察では,育雛最初期には仔稚魚を用いたサイズ選択的な給餌が認められたが, それ以降は明白なサイズ選択は行わず,魚の種類や年級,さらには昆虫や甲殻類といった餌の種類の頻繁な切り替えが認められた. おそらく,育雛の初期には飲み込みやすいものが重要な餌となり,その後に,重量のある大きな餌が重要になってくるのであろう. また,カイツブリ成鳥の摂餌限界サイズは体高20mm付近にあることが示唆された. 育雛期全体を見ると,カイツブリは,非常に小さな餌を大量に利用しており,またその利用期間も長かった. おそらく,このような餌が豊富に,かつ長期間採餌環境中にいることが重要な繁殖地の条件になると思われる.

 カイツブリ類2種では,繁殖地への飛来時期には大差が無かったものの, カンムリカイツブリは飛来後すぐに産卵を開始したのに対して,カイツブリは飛来から1月以上の期間をおいてから産卵を開始していた. このカイツブリの産卵開始の時期は,多くの溜池で魚類の孵化が始まる時期に一致していた. おそらく,カイツブリはその繁殖において,非常に小さな魚をカンムリカイツブリよりもはるかに多く必要とするため, 当歳魚の出現を待ってから繁殖を開始したのだと思われる.

 カイツブリの室内実験では,3羽のカイツブリを用いて,モツゴのサイズ選択実験, フナのサイズ選択実験,魚種選択実験,処理時間計測実験を行った. 実験結果には個体毎の特徴が見られ,選択的に攻撃されるサイズや魚種,捕食能力に違いが認められた. この差は,生育環境の違いに起因する,生きた餌を採餌することの習熟度の差を反映したものだと思われる. 処理時間計測実験では,魚のサイズが大きいほど処理時間が増加し,同体長のモツゴとフナでは, 常にフナの方が処理時間が長くかかっていた. これは,同体長であればモツゴよりもフナの方がより体高が高く且つ重くなるので, 飲み込む時間や持ち替える時間が余計にかかることを示している.

 カワウの調査はコロニーへの撹乱が激しく,十分なサンプル数が集まらなかったが, カワウの雛の吐き落としには,餌の状態やサイズに多様なものがあることが確認できた.

 カンムリカイツブリとカイツブリの給餌生態の違いで,注目すべきものは非常に小さな餌への依存度の著しい違いである. カイツブリの繁殖にとって必要な環境は,外来魚やそれを目的とした人による攪乱のために, カンムリカイツブリのものよりも損なわれやすい. そのため,カイツブリ類2種の個体数の増減に差が生じたのだと思われる.

 カワウは,カイツブリ類2種よりも,はるかに採餌範囲が広く,多様な餌を利用することができると考えられる. また体サイズも大きく,吐き戻しによって一度に複数の餌を給餌するため,利用可能な餌サイズの範囲も広いと思われる. そのため,外来魚の移入などで攪乱が進行している湖沼を繁殖地兼採餌場として依存しなければならないカイツブリ類2種と異なり, カワウは著しく個体数を増加させているのだと思われる.