氏 名 みね としき
峯 利喜
本籍(国籍) 大阪府
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第145号
学位授与年月日 平成23年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 シアル酸含有糖鎖の合成を中心とした海洋性細菌由来シアル酸転移酵素に関する生化学的研究
( Biochemical study for sialyltransferases cloned from marine bacteria: focused on the enzymatic synthesis of various sialyl-oligosaccharides. )
論文の内容の要旨

 シアル酸は複合糖質に含まれる糖鎖の主に末端に存在し、炎症反応や免疫応答、 細胞間の認識、ガン化、そしてウイルス感染といった多くの生物学的現象において重要な役割を果たしていることが報告されている。 糖鎖へのシアル酸の付加は主にシアル酸転移酵素によって行われるが、酵素の起源により受容体基質特性には差異がある。 細菌由来の酵素は動物由来の酵素と比較して幅広い受容体基質特性を有することが報告されているが、 細菌由来の酵素間においてもその特異性には違いがあることが知られている。 そこで受容体基質特異性の低い酵素と高い酵素との違いを、タンパク質の立体構造から明らかにすることを将来的な目的として、 海洋性細菌に由来するシアル酸転移酵素に関する研究を行った。 また細菌由来のシアル酸転移酵素を応用展開することを視野に入れ、 植物内在性オリゴ糖へのシアル酸付加および植物細胞内での糖タンパク質糖鎖への適用を目指して、 植物由来の誘導性プロモータの単離を行った。

 海洋性細菌の中では受容体基質特性が高いことが知られていた Photobacterium leiognathi JT-SHIZ119株より α2,6-シアル酸転移酵素をコードする遺伝子を単離した。 単離した遺伝子から推定されるタンパク質の一次構造は、 既に報告されている P. leiognathi JT-SHIZ-145株の 2,6-シアル酸転移酵素の一次構造と95%一致した。 単離した遺伝子を大腸菌で活性を有する組換え酵素タンパク質として発現させ、 精製した酵素タンパク質について解析を行ったところ、本酵素はシアル酸転移酵素活性のみならず、 α2,6-結合したシアル酸に特異的に作用するシアリダーゼ活性をも有する、 2機能性酵素であることを明らかにした。 従って、受容体基質特異性が高いと考えられていた本酵素の特徴は、このシアリダーゼの作用により、 シアル酸転移酵素活性の働きで合成された産物からシアル酸が切断された結果を反映していた可能性が示唆された。 P. leiognathi JT-SHIZ-119株が有するシアル酸転移酵素は、 α2,6-シアル酸転移酵素が2種類の活性を示す最初の報告であった。

 受容体基質特異性が低いことが知られていた Photobacterium sp. JT-ISH-224株由来の 組換えα2,3-シアル酸転移酵素Δ23psp23STを用いた研究からは、 ラクトースにNeu5Acを2分子転移させて2,3'-ジシアリルラクトースを合成できることを見出した。 構造解析の結果この化合物がα-アノマー型でのみ水溶液中で存在していたことから、 Photobacterium sp. JT-ISH-224株由来の組換えα2,3-シアル酸転移酵素Δ23psp23STは α-グルコピラノースの3位から1位の水酸基の立体配置をガラクトピラノースの2位から4位の水酸基の立体配置として認識することにより、 α-グルコピラノースの2位の水酸基にNeu5Acを転移しているという仮説をたてた。 この仮説を検証するために、ガラクトピラノースの2位から4位の水酸基の立体配置と重ね合わすことができる 構造を有有するマンノースおよび6-マンノビオースを受容体基質に用いて合成反応を行ったところ、 予想通り産物を得ることができた。 マンノピラノースのβ-アノマーにおけるC-2からO-5の立体配置は、 ガラクトピラノースのC-4からC-2の立体配置と重ね合わすことができる。 この場合、ガラクトピラノースのC-2とマンノピラノースのO-5との間の構造は異なっていることから、 Photobacterium sp. JT-ISH-224株由来の組換え 2,3-シアル酸転移酵素Δ23pspST3は、 ガラクトピラノースのC-4とC-3の立体配置構造(シス-ジオール構造)を主に受容体基質として認識していることが示唆された。 次に各種イノシトールを受容体基質に用いて反応を行った結果、Photobacterium sp. JT-ISH-224株由来の 組換えα2,3-シアル酸転移酵素Δ23pspST3は4種類のイノシトール、 1D- chiro -inositol、epi -inositol、muco -inositol、 および myo -inositolにシアル酸を転移する活性を有することを明らかにし、 シアル酸転移酵素がシアリルイノシトールを合成できることを初めて明らかにした。 合成産物を得ることが出来た受容体基質の構造を比較すると、 β-ガラクトピラノースの3位および4位の水酸基の立体配置およびアノマー位のエクアトリアル配置が共通していた。 またガラクトピラノースの環酸素位の配向性がアキシャルである基質よりもエクアトリアルである基質を より良い基質としていることを明らかにした。 これらの結果から、 Photobacterium sp. JT-ISH-224株由来の組換え 2,3-シアル酸転移酵素Δ23pspST3は、 これら立体配置を認識してガラクトピラノースの3位の水酸基に対応する水酸基にNeu5Acを転移させていることが示唆された。

 低温貯蔵したバレイショ塊茎より、低温誘導性遺伝子CIP353のcDNAおよびプロモーター領域を含むゲノムクローンを単離した。 そしてCIP353転写物の発現解析から、本転写物は6℃以下の低温下で貯蔵したバレイショ塊茎でほぼ特異的に発現し、 温度によりその発現が制御されていることを示した。 これらの結果からCIP353遺伝子のプロモーターが低温貯蔵した塊茎で特異的に機能していることが示唆された。