氏 名 いわぶち けい
岩渕 慶
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第141号
学位授与年月日 平成23年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 ガレガ( Galega orientalis Lam.)の北海道への導入に関する研究
( Study on Introduction of Galega ( Galega orientalis Lam.)into Hokkaido, Japan )
論文の内容の要旨

 北海道では豊富な土地基盤を活用した自給飼料多給型の酪農の実践が求められている。 しかし,草地におけるマメ科牧草の混播割合は平均で10%程度と極めて低く,草地の量と質が不足していることから, その実践は困難な状況にある。 北海道において現在利用されているマメ科牧草は,アカクローバ,シロクローバおよびアルファルファであるが, これらは一般的に永続性が劣ることが指摘されており,質・量ともに良好な草地を長期的に利用できない一因となっている。

 そこで,本研究では越冬性や耐寒性,永続性に優れ,牧草としての利用価値が非常に高いことが海外で報告されている ガレガ( Galega orientalis Lam.)を,北海道に導入するための基礎的な知見を得ようとした。

ガレガを北海道に導入するにあたり,最初に北海道における生育特性および適応性を検討する必要がある。 そこで,形態的な特徴や生育特性を調査するとともに,北海道7地域においてガレガの生育特性からみた適応性について, アルファルファおよびアカクローバと比較検討した。 その結果,ガレガは優れた越冬性,耐倒伏性,永続性,粗飼料品質を備えた草種であり, チモシーとの混播適性に優れることから,北海道において新しい採草用マメ科草種として利用することが可能と判断できた。

 次に,ガレガを北海道で普及するには,最低限必要な栽培に関する技術情報を得る観点から, 播種期,最終刈取り期,チモシーとの混播適性および播種量,草地の造成法について検討を行った。 さらに,ガレガのサイレージを調製して飼料成分組成および発酵品質,栄養価を調査するとともに, 乳牛に給与して飼料としての有用性について検討した。 その結果,まず,ガレガの播種期遅延よる影響は,アルファルファよりも大きいことが明らかとなり, ガレガを安定的に栽培するにはアルファルファより約2週間早い7月下旬から8月上旬までに播種することが 必要であることが明らかとなった。 また,播種時期の早晩は,ガレガの地下部(茎数,茎径および地下部重)の発達に差異を生じさせ, 播種翌年のガレガの生育量に大きな影響を与えた。 また,チモシーとの混播草地においては,播種期の違いがガレガの混生割合ならびに収量性に大きな影響を及ぼした。 翌年の生育に大きな影響を及ぼす最終刈取り期は,アルファルファに比べて約1カ月早く, その影響はアルファルファよりも大きいことが明らかとなった。

 チモシーとの混播適性については,ガレガは播種当年に過度にマメ科率が高くならず, 播種後6年目においても約30%で推移し,チモシーを主体に多収を示したことから, チモシーとガレガの混播は,草地の造成初期から維持段階を通じて,両草種の生育特性を相互に活用できる好適な組合せであると考えられた。 ガレガのチモシーに対する競合力は,チモシー中生品種に対する方が早生品種よりもやや強く, ガレガのチモシーに対する競合力は,他のマメ科牧草種と同様にチモシーの早晩性と密接な関連が見られた。 また,ガレガとチモシー早生および中生品種との混播栽培時の播種量は,チモシー1 kg/10aに対してガレガ2 kg/10a以上が必要と考えられた。

 次に,ガレガ草地の造成法については,ガレガの割合が適正な草地を造成する場合には, 除草剤処理同日播種法が非常に有効な手段であることが示された。 また,処理同日播種法を用いた場合でも良好なガレガ草地を造成するには,チモシーとの混播栽培が有効であった。

ガレガの飼料としての有用性について検討した結果,ガレガはアルファルファと同様な予乾の程度で調製すれば 良質なサイレージが調製できることが確認され,飼料成分,栄養価, サイレージの発酵特性の観点からは飼料作物としての飼料価値が高いと判断された。 また、チモシーと混播したガレガサイレージは,チモシー単播サイレージよりも少ない乾物摂取量で同程度の産乳性示し, 大豆粕などのタンパク質飼料の給与量をチモシー単播サイレージおよびアカクローバ混播サイレージよりも減らせることができ, 飼料コストの低減に効果があると考えられた。

 以上のことから,ガレガは越冬性,永続性およびチモシーとの混播適性,ならびに飼料特性に優れ、 草地の量と質を改善する上で非常に利用価値が高い草種であり, 北海道の生産現場の要望に充分対応可能な新規のマメ科牧草であると判断できた。 本研究の結果をもとに,北海道における栽培スケジュールを提案した。

 今後,未検討の土壌条件との関連や施肥管理法,刈取危険帯の存在と時期について, 生理学的な視点での研究が早急に行われそれらの成果が加わることで, ガレガが第4のマメ科牧草として北海道に確実に定着することになると考えられた。