氏 名 ひかげ たかし
日影 孝志
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第544号
学位授与年月日 平成23年3月31日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 リンドウ W14/15 遺伝子の多型と越冬芽の低温応答
( Polymorphism of the gentian W14/15 gene and its correlation with cold-response of overwinter buds )
論文の内容の要旨

 切り花リンドウは、いったん定植すると5年程度収穫するので、 できるだけ長く生存して収穫できることが農業経営上もっとも重要である。 近年、定植2~3年目で多くの株が枯死する品種もあり、問題となっている。

 リンドウは、越冬前に地際に越冬芽を形成し、耐寒性を獲得し、冬期間休眠し、春に萌芽してくる。 株の枯死は、この越冬芽の形成、耐寒性、および休眠と深く関わっている。

 申請者の研究室では、リンドウ品種「安代の秋」の越冬芽に多く蓄積する2つのタンパク質W14及びW15を同定し、 それらが非常によく似たアミノ酸配列をもつこと、 両タンパク質ともα/βハイドロラーゼスーパーファミリーの持つ基本構造を有し、 in vitroでは実際にエステラーゼを示すこと、 および両タンパク質をコードする遺伝子は対立遺伝子の関係にあることなどを明らかにしてきた(参考論文1)。

 W14及びW15が越冬芽に特に多く蓄積することは、それらが越冬芽の形成、耐寒性、 あるいは休眠など低温に係わる生理機能に何らかの関与をしていることを示唆する。 また、同一ではないW14とW15が対立遺伝子の産物であることは、 それらの遺伝子(以下 W14/15 遺伝子と記す)に多型が存在することを示唆する。 本研究はこのような視点に立ち、 W14/15 遺伝子の多型解析を行うとともに、多型と越冬芽の低温応答との相関を解析した。

1. 品種間でみられるW14/15遺伝子型の多型

 21種類の品種・系統を用いて葉からDNAを抽出し、W15遺伝子の塩基配列をもとに設計したプライマーを用いてPCRを行い、 その産物をpCR-Bluntベクターにサブクローニングし、塩基配列を決定した。 その結果、品種・系統により3箇所のRFLP (Restriction Fragment Length Polymorphism) サイト、 3箇所の挿入/欠失サイトが存在することが判明した。 これらのサイトの有無および他の1塩基多型などにより W14/15 遺伝子は10種類のハプロタイプ ( W15a、W15a', W15b、W14a、W14a', W14b1、W14b2、W14b2', W14b3およびW14c )分類することができた。

この多型により、 G. trifrora, G. scabra, G. septemfida, G. pneumonanthe など異なるリンドウの種(species)を 同定することが可能である。 また、G. trifrora (エゾリンドウ)や G. scabra (ササリンドウ)では上記の多型以外に 幾つかの品種・系統特異的なSNP (Single Nucleotide Polymorphism) も存在したので、 W14/15 遺伝子の多型は、栽培品種・系統の個体識別に用いることも可能である。

2. W14/15 遺伝子型多型とリンドウ越冬芽の低温応答

 次に、上記の W14/15 遺伝子多型とリンドウ越冬芽の耐寒性との相関を知るために、 13種類のリンドウ品種・系統をもちいてリンドウ越冬芽の越冬生存率を調べ、 上記10種類のハプロタイプからなる対立遺伝子型との相関を調べた。

 その結果、W14b1またはW14b2ハプロタイプを対立遺伝子ペアの一方または両方に持つ品種・系統は低い越冬生存率を示すことが判明した。 そこで、交配により上記ハプロタイプの遺伝子を別の越冬生存率の高い系統に導入したところ、 これらのハプロタイプを対立遺伝子の一方にもつ系統は越冬生存率が低下した。 従って、W14/15 遺伝子の多型は耐寒性予測マーカーになり得る。

 以上のように、本研究では W14/15 遺伝子の多型解析を行い、10種類のハプロタイプを同定した。 さらに、この多型により、系統分類、品種識別が可能であることを示し、さらに耐寒性予測の遺伝子マーカーにもなり得ることを示した。 このようなリンドウの種・系統の識別法の開発は本研究が初めてである。