氏 名 シラバコング ピヤマース
SILLAPAKONG, Piyamas
本籍(国籍) タイ
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第540号
学位授与年月日 平成23年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 寒冷圏生命システム学専攻
学位論文題目 桑枝皮部からの免疫賦活物質の同定と機能解析
( Identification and function of immunomodulatory compounds from mulberry stem bark )
論文の内容の要旨

 本研究では Morus alba 枝皮部から新規の有用物質をスクリーニングし, 健康食品素材や天然物由来の医薬品候補物質を見出すことを目的とし, 第一章では各種溶媒を用いた桑枝皮部抽出物からの機能性成分の探索をおこない, 第二章では特に桑枝皮部水抽出物からの生物活性物質の同定と機能, 第三章ではマウスを用いた in vivo 試験で桑枝皮部水抽出画分が免疫系に及ぼす効果を検討した.

 桑枝皮部からの生物活性物質の機能探索のために,有機溶媒と水を用いた逐次抽出をおこない, 得られた抽出物について抗がん,免疫賦活活性試験をおこなった. 抗がん活性試験については,n -ヘキサン抽出物と酢酸エチル抽出物において活性が認められたが, 酢酸エチル抽出物の方が活性が高く,そのIC50 値は 48 μg/mlであった. 一方,免疫賦活活性試験の結果,水抽出物に強い活性が認められ,200 μg/mlの濃度でリンパ細胞数が5倍に増加した.

 その結果,桑枝皮部には,抗がんや免疫賦活に関する生物活性物質の存在が示唆された. また,桑枝皮部,桑葉,桑枝水抽出物質を調整し,免疫賦活活性の比較をおこなったところ, 桑枝皮部水抽出物に最も高い免疫賦活活性が認められたため,この抽出物に含まれている生物活性成分を精製し, 活性画分 F2-3-1-4 を得た. ゲルろ過カラム Superdex 200 10/300 GL により F2-3-1-4 の分子量は約 200 k 以上であり, 総タンパク量が約 55.3%,総糖量が約 9%であることが示された. さらに,トリシン SDS-PAGE の結果,分子量約 40 kと63 k の主要なタンパクの存在を確認した.

 F2-3-1-4 に含まれているタンパク質を2-メルカプトエタノールと 5%トリプシンを用いた2種類の方法で変性消化し, それぞれ免疫賦活活性試験をおこなった結果,活性が減少し,免疫賦活活性にはタンパク質が関与していることを確認した. 一方,リンパ球細胞中のB 細胞のみを単離し,細胞増殖活性試験をおこなった結果, F2-3-1-4 にはLPS と同等の細胞増殖活性が認められた. 以上の結果から,F2-3-1-4はリンパ球 B 細胞の活性化を促すタンパク質-ポリサッカライド複合体である可能性が示唆された.

 In vivo における免疫賦活活性を調べるために,負荷条件として LPS を腹腔内投与し, 炎症反応を引き起こしたマウスに桑枝皮部水抽出物 F2 画分を経口投与し,その効果の解析をおこなった. その結果,コントロール群,既知の免疫賦活素材であるレイシ熱水抽出物(GLE)群と F2 群を比較したところ, 体重や飲料・食餌摂取量,臓器重量に有意な差が認められず,いずれの群に対してもネガティブな影響はなかった. また,白血球による貪食能を測定した結果,F2 群の貪食能がコントロール群と GLE 群に比べて有意に高く, 食細胞 1 個あたりの白血球貪食能においても F2 群では高い貪食能を確認した. さらに,Con A によるマウス脾臓リンパ細胞の増殖試験の結果,F2 群がコントロール群, GLE 群よりもマウス脾臓リンパ球の増殖を促すことを確認した. これらの結果から,桑枝皮部による免疫賦活活性は in vivo においても活性が存在し, 既知の免疫賦活素材であるレイシよりも強い活性を有することを確認した. また,その免疫系の活性化メカニズムについては,B 細胞の刺激を介している可能性が示唆された. これは,桑由来の生物活性物質として初めての報告である.

 本研究では,桑枝皮部から免疫賦活活性を有したタンパク質-ポリサッカライド複合体の存在を提案し, それをマウスの経口投与した実験によって強い免疫賦活機能の未利用昆虫関連生産物であった桑枝皮部に対して新しい付加価値を発見することができた.

 これまでは,桑葉と桑根茎皮(桑白皮)から多くの生物活性分子の同定と抽出画分の機能性が明らかにされており, ヒトの各種疾病の予防治療に活用されてきた. しかし,桑枝皮部からの免疫賦活活性成分の存在については初めの知見であり, 従来産業廃棄物として処分されてきた桑枝条を新しい生物資源として有効活用できると考えられる.