氏 名 おおはし おさむ
大橋 治
本籍(国籍) 青森県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第537号
学位授与年月日 平成23年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 総合農協における共販の意義に関する研究
-津軽りんご産地・共販型総合農協の展開事例を基に-
( The Significance of Cooperative Selling in Japan Agricultural Cooperatives:
An Analysis of Examples of Cooperative Selling in the Tsugaru Apple Production Area )
論文の内容の要旨

 本研究は、総合農協の特徴である総合性の中に共販を位置づけた時どのような機能、 作用が期待できるのか、事例分析によって明らかにすることを課題としている。

 第1章では、本研究が分析期間を産業組合時代まで含めて長期に渡って設定し、 全国的展開動向の中に事例を位置づけ、比較によって特徴を明らかにする方法を取っていることから、 次章以降の事例分析に必要な農業経済と総合農協のマクロ的かつ通史的趨勢を把握することを課題とした。 産業組合段階から現段階までの経済計算データを用いて農業生産力の推移、農業所得の推移、 農協組織展開の推移、事業総利益の決定要因である利用率動向等の分析を行い、 総合経営の外部変数として捉えられている生産力の回復と利用率の向上が、 総合農協に課せられた現段階的課題であることに論及した。

 第2章では、兼営や総合性はどのように論じられてきたのか総合性の形成過程である産業組合段階まで遡り、 先行研究を総括的に把握することを課題とした。 これに接近するため、総合農協という用語の初出と定義、産業組合法制定以前の高橋昌・横井時敬(1891)の論及を起点にして、 東畑精一、近藤康男、井上晴丸、戦後段階では美土路達雄、藤谷築次、佐伯尚美、三輪昌男、太田原高昭ほかを取り上げ、 総合性に関してどのように論及しているか整理した。 これら整理を通じて総合性を巡る論点と視角は、多面的かつ多様であることを把握した。 これら先行研究の中から「総合経営の機能」に直接的に論及している論者の指摘を取り上げ共通性と差異を検討し、 それぞれ手法や基礎理論の違いはあるが、個々事業が単独では発揮しえないが、 総合化された状態でのみ発現する機能や効率性に言及しているという共通点を把握した。 本研究では、総合性にはこれら機能が備わっていると規定して、論理面からの事例分析視点を定めた。

 第3章では、産業組合段階の兼営揺籃期における兼営化・総合化の展開状況を事例分析することとし、 全国の産業組合動向、津軽りんご産地である南津軽郡下での動向、 そして具体的な運営事例として竹館産業組合の経営分析によって、全国的動向から個別事例まで3段階の事例分析を行った。 竹館組合の事業運営を総括すると、農業経営すなわちりんご生産農民の再生産循環の全要素に密着した事業体系を持ち、 生産農民の要求に応えつつ再生産循環を自己創造的に改変向上する事業を展開していることを明らかにした。

 第4章では、戦後新生農協すなわち総合農協段階での事例として、 りんご産地内においてりんご生産への取り組みが後発組であるJA相馬村を取上げ60余年の実践分析を行い、 総合性における共販はどのような機能を発揮しうるのか、本論文の主題に接近した。 この分析を通じて生産力、農家経済循環、総合農協各事業の間に高共販率が創出する協同の場づくり効果が循環作用として働いており、 総合農協自らの事業展開によってこれらを内発的に改変可能であるとの結論を導いた。

 第5章では、第3章と第4章の2つの事例を比較検討して共通性を整理し、 かつ、総合性先行研究を比較分析しながら総合性と共販の連関関係を論理モデルとして把握した。

 以上から次の結論を導いた。 総合農農協における「総合性」はあらゆる状態を呑み込み、総てを取り込んだ表現である。 それがゆえに捉える視角は多面的となり、その把握や定義も多様である。 本研究では総合性の機能は何かという疑問から出発し、経営を維持し且つそれ自身を内発的に改変し展開する機能と、 生産農家と一体化した状態において地域農業を創造的に展開する2つの機能が内包されていると規定した。 そしてこの両機能は高い共販率が創出する「協同の場づくり効果」によって発現する。 この点が「総合性における共販の意義」であるとの結論を導いた。

 現段階、再生産循環の縮小なかんずく生産力縮退が続いているという実態を捉えた時、 農家経済循環を安定化させ且つ拡大に転じて、地域農業を力強く展開していくためには、 事例分析で示したように共販が重要な役割を果たし得る。 共販事業に取り組むにあたって、共販を価値実現という一面的な役割と独立事業として封じ込めて捉えるのではなく、 総合性の中に位置づけることによって内発的な作用を引き出すことが出来る点に留意すべきである。 共販は農家と農協の一体性を高める重要事業であり、共販率はこの状態を表す基本指標である。

 総合農協は日本型農協として独自の発達を遂げた。 西欧型の事業ごとの協同組合組織と比較して生活と経営の未分化、 あるいはアジア的小農体制であるが故の総合性という分析もある。 この「未分化」を分かつことが出来ない「統体性」という非分離的思考で捉えた時「総合農協形態」に 地域農業を変革する創造的主体になり得る可能性を見出すことが出来る。 そして、総合性の機能を発揮させる協同の場づくり効果を創出する共販は地域農業の持続的発展に重要な作用をもたらす。