氏 名 クラカネ シズエ
倉兼 静江
本籍(国籍) 山形県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第535号
学位授与年月日 平成23年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 サルナシの抗生活習慣病食品素材・成分としての開発と作用機構
( Development of Actinidia arguta as food materials and components available for prevention of lifestyle-related diseases, and its function mechanism. )
論文の内容の要旨

 糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病の発症や悪化には内臓脂肪の蓄積が大きく関わることが明らかにされている。 メタボリックシンドロームと診断される人が近年急増して、大きな社会問題となっている。 メタボリックシンドロームの発症基盤は肥満であり、肥満の予防・改善は疾病を予防する上でも大変重要である。 近年、食品中の成分にはこれらの生活習慣病を予防・改善する機能が見出されており、 特にポリフェノール類は多彩な生理機能を持つことで注目を浴びている。

 サルナシ( Actinidia arguta )は豊富なビタミン源であるが、食品化学的機能、生理機能に関する報告は少なく、 その開発はサルナシの有効活用の面からも大変興味深い。 そこで、近年問題となっている生活習慣病、特に、肥満、糖尿病、高血圧に対する効果を in vtro、in vivo において その作用機構をも含めて検討を行った。

 第1章では、サルナシ果実に含まれるポリフェノールと遊離アミノ酸について分析を行った。 サルナシには約0.3%のポリフェノールが含まれており、同じマタタビ科のキウイフルーツの2倍量であった。 サルナシポリフェノールの同定では、今回、新たにイソケルシトリン、ハイペリン、 プロシアニジンB2、プロトカテキュ酸の含まれることが明らかとなった。 アミノ酸としては、血圧降下作用が知られている -アミノ酪酸(GABA)が比較的多く、 またニコチアナミンが微量含まれていることが明らかとなった。

 第2章では、サルナシポリフェノール画分(AP)の食後血糖値の上昇抑制作用について検討し、 APはデンプンまたはマルトース負荷時の食後血糖値の上昇を有意に抑制することを示した。 また、グルコースの同時負荷時に、血糖値の上昇に差がみられなかったことから、APによる血糖値の上昇抑制は、 小腸でのグルコースの直接的な吸収阻害ではなく、マルターゼ、スクラーゼの活性阻害による糖の吸収抑制によることが示された。 また、酵素阻害にはイソケルシトリンとハイペリンを主としたフラボノイドが大きく関与することが示唆された。

 第3章では、食餌誘導性肥満モデルマウスにおけるAPの抗肥満作用を検討した。 高脂肪食へのAPの1%添加は、高脂肪食による体重増加、内臓脂肪の蓄積を抑制する傾向にあり、 また血中の中性脂肪、遊離脂肪酸、血糖値、TNF- 値は有意な低下を示した。 また、肝臓の遺伝子発現を網羅的に解析した結果、脂質代謝や炎症性サイトカインに関わる 遺伝子の発現が制御されることが明らかとなった。 APは、脂質代謝やインスリン抵抗性を遺伝子レベルでも制御し、 抗肥満作用、インスリン抵抗性改善作用を有することが示唆された。

 第4章では、APとその成分の一つであるイソケルシトリンの抗糖尿病作用を2型糖尿病モデルマウスを用いて検討した。 APの摂取によって、耐糖能試験(OGTT)における血糖値上昇が有意に抑制されること、 インスリン抵抗性の原因となるTNF- 、遊離脂肪酸が低値を示すこと、 またインスリン抵抗性改善因子である高分子アディポネクチンが高値を示すことが明らかとなった。 また、脂肪酸合成酵素の活性抑制と 酸化酵素であるアシルCoA オキシダーゼ活性に亢進がみられ、 脂質代謝の改善作用も有することが示唆された。 イソケルシトリンの摂取では、AP摂取の場合と同様にOGTTにおける血糖値上昇と肝臓脂質の蓄積に有意な抑制がみられた。 また、肝臓中の脂質低下やインスリン抵抗性の改善には、PPAR が関与している可能性が示唆された。

 第5章では、サルナシのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用による血圧降下作用について検討し、 AP中にも多く含まれるイソケルシトリンとハイペリンがそれらの作用に関与している可能性を示した。 また、その他の作用成分としてペプチド類が含まれる可能性を推察した。

以上の結果から、本研究では、サルナシには豊富なビタミン類だけではなく、 多種多様なポリフェノールの他、GABAやニコチアナミンなどの血圧降下性アミノ酸も含まれることが明らかにされた。 また、サルナシポリフェノールとして初めて明らかにされたイソケルシトリンとハイペリンには、 -グルコシダーゼ阻害作用、ACE阻害作用のあること、また、これら成分を含むAPには、 脂質 酸化系酵素の活性や炎症性サイトカインの遺伝子発現を制御するPPAR の遺伝子発現を上昇させることが推察された。 このことが、肝臓の脂質の蓄積を抑制し、インスリン抵抗性を改善し、抗糖尿病、抗肥満作用と関わっていることが示唆された。 また、サルナシは血圧降下作用も有し、生活習慣病予防への利用が期待された。