氏 名 むらしげ りょう
村重 諒
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第532号
学位授与年月日 平成23年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 Trifluoromethanesulfonic acid(TfOH)の特性を利用したFriedel-Crafts反応の検討
( Studies of Friedel-Crafts reaction using TfOH )
論文の内容の要旨

 天然アミノ酸であるphenylalanine(Phe)の側鎖が1つ増炭した構造であるhomophenylalanine(hPhe)は、 Pheとは異なる生物活性を示す場合が報告されており、医薬品創製におけるPheとの構造活性相関研究に用いられる。 またhPheはアンジオテンシン変換酵素阻害剤の構成単位であることから、その効率的、立体選択的な合成が求められてきた。 申請者はaspartic acid(Asp)誘導体のFriedel-Crafts(F-C)反応によるhPhe合成法に着目した。 この手法は原料のAspの不斉を利用してhPheを合成するため、両エナンチオマーを同じ方法で得られる利点があるが、 Asp誘導体のF-C反応において、反応中間体が有機溶媒に難溶なため、大過剰量の芳香族化合物を溶媒に用い、 長時間の加熱等の厳しい反応条件が必要とされてきた。 そこで種々触媒と溶媒を検討した結果、超強酸性のtrifluoromethanesulfonic acid (TfOH)をF-C反応の触媒兼溶媒として用いることで、 Asp誘導体の反応中間体を溶解させることに成功し、当量条件において芳香族化合物と効率的に反応が進行することを見出した。 この方法は様々な置換基を持つ芳香族化合物や、光アフィニティーラベルに利用されるtrifluoromethylphenyldiazirineにも応用が可能であり、 高収率で目的物を得ることに成功した。 続いてベンジル位カルボニル基を還元し、α位アミノ基、カルボキシル基の保護基を脱保護することで、 芳香環上に様々な置換基を持つhPhe誘導体をAspの立体を制御したまま合成することに成功した。

 またこの方法のphenolへの応用を試み、F-C反応以外に考慮が必要な水酸基のO-アシル化と続く Fries転位という3種の反応の制御についてacetyl chlorideを用いて検討した。 TfOH濃度によってphenolのO-アシル化とF-C反応、Fries転位の制御が可能であることが明らかとなった。 従来、phenolの水酸基を保護せずにルイス酸を触媒に用いてF-C反応を行った場合、 水酸基に触媒が配位してしまい、反応が進行しないことが知られている。 しかしTfOHはルイス酸性を示さず、アシル基の反応性を活性化させたことから無保護のphenolでのF-C反応が可能であった。 またO-アシル化体であるphenyl esterをTfOH中、F-C反応と同様の条件で処理したところ、 Fries転位生成物を得る事に成功した。 このようにTfOHを触媒に用いることで、3種の反応が低温短時間で高収率に進行することを明らかにした。 また低温短時間での反応により、電子供与性一置換芳香族のF-C反応とFries転位が速度論支配によりパラ選択的に進行した。 次にこの方法を様々な長さのアルキル基を持つ脂肪酸クロライドに応用し、いずれも高い収率で目的物を得る事に成功した。 また前述のhPhe合成を踏まえ、phenol誘導体をアシルアクセプターとしたhomotyrosine(hTyr)合成を検討した。 hTyrは様々な天然の生理活性ペプチド中に見られ、全合成における合成前駆体としての利用例が報告されている。 hTyrはphenolを保護したanisole誘導体とAsp誘導体のF-C反応により合成される例が報告されているが、 F-C反応において長時間の加熱が必要とされていた。 PhenolとAsp誘導体を用いて種々条件の検討を行った結果、ベンゼンと同様に当量条件において目的物を高収率で得る事に成功した。 続いてベンジル位カルボニル基の還元、脱保護によりAspの不斉を保持したままのhTyr合成に成功し、 従来法と比較して、より効率的な合成法を確立した。

 次にTfOHを用いたF-C反応の反応機構の詳細を検討することを目的にAsp誘導体とbenzeneを原料に用い、 TfOHの水素(H)が重水素(D)で置換されたTfODを用いてF-C反応を行った。 反応後の生成物の1H-NMRより、ベンゼン環とカルボニルα位のHがDで置換されていることが明らかとなった。 このことからTfOHを用いたF-C反応では、通常知られているacyl cationの他にketeneのようなカルボニルα位が 関与するような反応中間体の存在が示唆された。 一方でTfODによりベンゼン環のHがD置換されることを利用して、N-TFA-phenylalanineをTfOD処理することで 側鎖ベンゼン環へのD導入を立案、検討した。 D置換率はDの相対的な量、即ちTfOD当量に大きく依存することが明らかとなり、 最終的にベンゼン環のHの90%をDで置換する事に成功した。 またD置換されたサンプルのMS測定により、その置換様式を明らかにした。