氏 名 くめ こうへい
久米 浩平
本籍(国籍) 秋田県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第528号
学位授与年月日 平成23年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 環境温度変動条件下におけるtasiRNAの機能解析
( Trans -acting siRNAs impart robustness against fluctuating temperature )
論文の内容の要旨

 一定の環境条件下で栽培されている実験用植物とは異なり、 野外で生育する植物は昼夜の繰り返しや天候の変化、そして季節的変動による環境温度変動に曝されている。 よって植物は、環境温度変動に対処できる遺伝子発現制御系をもっていると考えられる。 温度に応答した遺伝子発現制御については、転写レベルでの研究が進んでいるが、small RNA による転写後レベルでの 発現制御の重要性が近年注目されてきている。  本論文では、植物ゲノムにコードされる内在性 siRNA の 1 種である trans -acting siRNA (tasiRNA) の 環境温度変動条件における機能についての解析を行った。 シロイヌナズナ実生を 24 時間低温処理したところ、miRNA 量は常温と変化がなかったが、 TAS1 および TAS3 tasiRNA 量は減少した。 これらの tasiRNA 前駆体 RNA 量は低温でも減少しないことから、tasiRNA 産生過程が低温感受性であると考えられた。 次に本実験条件においてサイレンシング効果が高いことが判明した TAS1 tasiRNA のターゲット mRNA の蓄積量を調べたところ、 そのいずれもが低温処理によって増加していた。 tasiRNA 産生に必須の Dicer-like enzyme 4 の変異体 ( dcl4-2 ) を用いて同様の解析を行うと、 野生型植物とは異なり、低温処理によっても発現上昇しないターゲット遺伝子 At1g51670、At4g28670 が見つかった。 At1g51670 の TAS1 tasiRNA による切断は低温によって低下していたことから、 この遺伝子は TAS1 tasiRNA を介して低温における発現誘導を受けていると考えられた。 これは、植物ゲノムにコードされる内在性 siRNA 量の温度による変化が、 低温におけるターゲット遺伝子発現を制御することを示した初めての例である。 一方、 dcl4-2 変異体においても野生型植物と同様に低温処理によって発現上昇する tasiRNA ターゲット遺伝子が見つかり、 これらの遺伝子は tasiRNA サイレンシング以外の何らかの機構によって低温で発現誘導されているものと考えられた。 そこで次に、植物体を 24 時間低温処理後、室温に戻しさらに 24 時間培養後、 このターゲット mRNA の発現変動について野生型植物と dcl4-2 変異体とで比較した。 その結果、野生型植物では常温に戻して 24 時間後、ターゲット mRNA 量が低温処理前のレベルまで減少したが、 dcl4-2 変異体では mRNA レベルの減少は僅かであった。

これらの結果から、TAS1 tasiRNA は、低温を関知して遺伝子発現を誘導するだけではなく、 環境温度変動条件下において、低温で発現誘導された mRNA の常温における速やかな分解に関する機能を有している可能性が考えられた。