氏 名 たがわ しんいち
田川 伸一
本籍(国籍) 神奈川県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第521号
学位授与年月日 平成23年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 未利用資源を利用したリードカナリーグラス発酵TMRの飼料価値の向上に関する研究
( Studies on improvements of feeding value of fermented total mixed ration of reed canarygrass used with unused resources )
論文の内容の要旨

 リードカナリーグラス(Reed canarygrass, Phalaris arundinacea L.; RCG)は, 湿潤・冷涼な気候に適する反面,夏枯れにも抵抗力を示し,匍匐茎を有して地下に拡がり叢状を呈するため, 収量の安定化および裸地化抑制といった利点が挙げられるが,嗜好性が低く適期刈取りを怠ると飼料の利用性が低くなることが知られている。 近年大規模な家畜を生産している現場では,発酵TMR(Total Mixed Ration: 完全混合飼料)として飼料を調製する事例が多数報告されている。 そこでRCGを発酵TMRとして利用するための基礎的知見を得て,我が国の飼料自給率向上に資するために本研究を行った。

 飼料の嗜好性を低下させるRCGのアルカロイド含量を測定するため、生育5段階のRCGを刈取り, RCGに含まれるアルカロイド(グラミンとホルデニン)の濃度を検討した。 その結果,グラミンとホルデニン含量は刈取利用の基準となる出穂前後には,家畜に害のある0.2%(乾物)以下であり, このようなRCGを利用した場合には害がないことが明らかになった。 RCGは糖含量が低いため,乳酸発酵の発酵基質となる可溶性炭水化物を増やすため酵素製剤(アクレモニュウム由来セルラーゼ:AC)を 添加してRCGサイレージの細胞壁構成成分に及ぼす影響を検討した。 その結果、ACの添加によって中性デタージェント繊維と酸性デタージェント繊維含量は減少し, 細胞壁構成成分がACの添加によって分解されたことを示すと考えられた。

 RCGの1番草および2番草を粗飼料として用い,ミカンジュース粕,豆腐粕およびトウモロコシジスチラーズグレインソリュブル(DDGS)を 配合して調製したRCG発酵TMRの発酵品質に及ぼす酵素製剤(商品名:プロセアーゼ)の影響を検討した。 その結果,ミカンジュース粕の配合はRCG発酵TMRの発酵品質を改善する効果は認められなかったが, 豆腐粕およびDDGSの配合により発酵品質は改善されることが示された。 また,プロセアーゼを添加すると更に発酵品質が改善された。 DDGSはエタノール生産の残さであり,エタノール工場ごとに化学成分が異なることが知られている。 そこで,2種類のDDGSを用いて発酵TMRを調製し、発酵品質を比較検討した結果,RCG発酵TMRの発酵品質は2工場の間に差はみられず, 2工場間の差が小さいことが示された。 新規に開発された酵素製剤を用いて発酵TMRを調製し,発酵品質に及ぼす酵素製剤の影響を検討した。 その結果,酵素の添加効果は新酵素よりも従来のプロセアーゼの方が効果は高いことが示された。 この原因は,新酵素の方が力価は小さく発酵品質改善効果は小さかったためと考えられた。 豆腐粕およびDDGS を原料として用いたとき,RCG発酵TMRの発酵品質が良好になることが分かったが, DDGSをRCG発酵TMRに及ぼすDDGSの影響を詳細に調べるため,0%,10%,20%および40%(原物)DDGSを配合したRCGサイレージを調製し, 発酵品質に及ぼすDDGSの影響を検討した。 その結果、DDGSの配合割合を高くするほど乳酸含量がと高くなる傾向を示し,40%配合のフリーク評点は82点の高品質サイレージを調製できた。 さらに,トウモロコシを使って水分を55%に調整し,DDGSを0%,10%,20%および40%(原物)の割合でRCG発酵TMRを調製し, 発酵品質改善効果を検討した。 その結果,DDGSを使った場合はその発酵品質は改善され,DDGS10%配合すると乳酸は2.2%(新鮮物)生成された。 水分55%程度の場合,DDGSの利用によって発酵品質が高くなることが示された。 しかしDDGSの配合割合と発酵品質の関係は明らかにできなかった。 ビタミン剤は脂溶性および水溶性の性質をもつものがあり,発酵TMRに添加すると発酵によって低下したpHによって減少することが考えられる。 そこで,ビタミンAをRCG発酵TMRに添加してビタミンAの消長を調べた。 ビタミンAは発酵によって減少し,半分以下にまで低下するものがみられた。 このことから発酵TMRにビタミンAを添加することは勧められないことが示された。

 RCG発酵TMRの家畜を供試した飼料価値のうち,飼料の嗜好性とルーメン内消失率を検討した。 嗜好試験の結果,黒毛和種雌牛は給与したRCG発酵TMR0.8kgを6分以内に全量を採食した。 また,発酵TMRを選択する順位にも傾向はみられなかった。 このことからRCGを混合した発酵TMRは飼料の嗜好性が良いことが示された。 さらに,RCG発酵TMRのウシのルーメン内消失率を検討した結果, RCG発酵TMR中乾物とNDF消失率はプロセアーゼを添加すると培養初期の消失率が高く推移した。

 以上の結果,RCGを用いて発酵TMRを調製するとき,豆腐粕,DDGSを配合すると発酵品質が良好になり, 酵素(プロセアーゼ)を利用するとさらに発酵品質の改善効果があることが分かった。 また,RCG発酵TMRは牛による飼料の嗜好性は良好であり,プロセアーゼ添加により培養初期のルーメン内消失率の改善効果があることを示した。