岩手県は日本でも雑穀生産が最も多い県である.
しかし,多収のためのヒエの栽培管理および加工・利用にとって重要な品質に関する研究報告は少なく,
基礎的知見が明らかになっていない.
そこで,早生でウルチ性通常アミロース系統の「軽米在来(白)」,ウルチ性低アミロース系統の「ノゲヒエ」,
モチ性ヒエ新品種の「長十郎もち」の3品種・系統を主な実験材料として,
多収栽培の基礎的情報となる農業特性および収量特性を明らかにし,収穫適期を確定した.
さらに,食味に影響を及ぼすアミロース含有率や粗タンパク含有率と登熟温度との関係や,
加工適性に影響を及ぼすと考えられる粒の搗精歩合と品質との関係を解明した.
また,コメとの混合炊飯について,食味との関係で試験を行った.
1 アミロース含有率の異なる栽培ヒエの生育・収量
早生の「軽米在来(白)」は穂数型,中生の「ノゲヒエ」と「長十郎もち」は穂重型で,
出穂期が異なっても3品種・系統の最高分げつ期は,8月1日であった.
また,供試したヒエ3品種・系統は,本試験の基肥水準では倒伏は認められなかったことから,
追肥による多収の可能性は高いと推察される.
ヒエの幼穂の発育相がイネと同じと仮定すると,穂数型の「軽米在来(白)」は登熟歩合をよくする穂ぞろい期(8月上旬)の追肥が,
穂重型の「ノゲヒエ」と「長十郎もち」は,穂数を増加させる有効分げつ期前半(7月上旬)が追肥適期と推察される.
2 主要特性からみた最適収穫時期
千粒重,発芽率,αーアミラーゼ活性は出穂期後日数25日から40日の間には有意な差異は認められなかった.
70%搗精粉の最高粘度は,出穂期後日数25~30日で高くなる傾向を示したが,
各特性値は,出穂期後日数25日から40日の範囲内では,統計的有意差は認められなかった.
収穫適期は,出穂期後日数25日から40日の範囲内では,出穂期後20~25日の早刈りは水分含有率が高く,
また,出穂期後日数40~45日の遅刈りは,降雨によるαーアミラーゼ活性の上昇による最高粘度の低下や,
粗タンパク含有率の増加など,品質低下を招くおそれがあることから,出穂期後30~35日と結論できる.
3 異なる登熟温度における品質への影響
千粒重は,登熟温度が28℃で千粒重が低下する傾向が見られた.
粗タンパク含有率および粒度は3品種・系統とも登熟温度の影響は受けなかった.
「ノゲヒエ」のアミロース含有率は,登熟温度が高いほど低下し,登熟前期の温度が,アミロース含有率に影響することが明らかになった.
ヒエのアミロペクチンの鎖長分布は,登熟温度が高いほど短鎖率が減少した.
糊化開始温度は,3品種・系統とも,22℃区より28℃区の方が高かった.
良食味米の品質特性との関係がヒエにもその結果があてはまるとするならば,
「軽米在来(白)」は22℃,「ノゲヒエ」は28℃,「長十郎もち」は25℃が,食味によい登熟温度と言える.
4 搗精歩合と品質特性
色調と色相は,搗精歩合が低いと明度(L*)は高く,色度(a*,b* )が低下した.
特に,明度(L*)に注目すると,70%搗精粒の明度(L*)と50%搗精粒の明度(L*)との間には,
有意な差異が認められなかった.
可食部の20%を搗精することによる損失は大きいことから,70%搗精粒が適当であると思われる.
アミロース含有率は,搗精歩合が低くなると,高くなった.
粗タンパク含有率は,有意な差異は認められなかった.
粒度は,「軽米在来(白)」が小さく,「ノゲヒエ」と「長十郎もち」は大きかった.
糊化特性は,品種・系統によって異なったラピッドビスコアナライザーによる粘度曲線を描くことが明らかになった.
すなわち,色調と色相,アミロース含有率,粗タンパク含有率,粒度,糊化特性は,搗精歩合によって明らかに異なった.
見た目,粘り,有効成分,経済性からみて,70%搗精が良いと思われる.
5 コメとのブレンド適性および食味評価
コメの加水量だけで炊飯できるヒエのブレンド割合は,「軽米在来(白)」は30%以下,「ノゲヒエ」と「長十郎モチ」は30%程度である.
ヒエ単独で炊飯する時の加水量は,重量比で「軽米在来(白)」は150%以上,「ノゲヒエ」は100%,「長十郎もち」は70%程度である.
コメとブレンドして食べる場合は,85%搗精の食味は70%搗精や55%搗精に比べ明らかに劣り,
70%搗精と55%搗精の食味の間には有意な差異は認められなかった.
すなわち,コメとブレンドして食べる場合は,70%搗精が良いと言える.
ウルチ性とモチ性との比較では,モチ性品種・系統の評価が高く,モチ性の作物間比較では,ヒエがアワ,キビに比べ優れていた.
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