氏 名 もりさわ たけし
森澤 猛
本籍(国籍) 神奈川県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第517号
学位授与年月日 平成23年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 ササ抑制処理を伴うヒノキ天然更新施業の研究
( Natural regeneration management of Chamaecyparis obtusa following hervicide weeding for dwarf bamboo )
論文の内容の要旨

 ヒノキは、我国における最も重要な用材の一つであり、 中でも天然成林から成る木曽ヒノキは歴史あるブランドと認知されている。 しかし、その資源量は著しく減少し、さらに伊勢湾台風などによる深刻な台風被害が発生した。 しかし、冷涼な気象条件に起因するポドゾルと、林床を濃密に覆うササが木曽ヒノキの更新の阻害要因となっていた。 このような背景の中、長野県木曽郡王滝村三浦(みうれ)実験林においてヒノキ天然更新技術確立を目的とする 各種の試験が1966年より行なわれ、濃密なササ林床を持つヒノキ天然生林においてもササ抑制処理を行なえば、 ヒノキ天然更新が促進されるとの研究成果が得られてきた。 中でも、薬剤によるササ抑制と帯状伐採の組み合わせによるヒノキ天然更新試験が行なわれた試験地では、 伐採からおよそ40年が経過した現在、ササが抑制処理された林地の大半がヒノキを主体とした更新林分に覆われている。

 ササ抑制処理がヒノキ天然更新施業に及ぼす効果を検証するために, 長野県三浦実験林の帯状皆伐天然更新試験地における36年間の更新木樹冠とササの被覆の変遷を空中写真を用い経時的に解析した。 1969年の伐採終了後,ササ抑制処理が行なわれなかった対照区では,伐採直後を除き,ササの衰退が見られなかった。 除草剤散布と刈払いによるササ抑制処理を行なったササ処理区では,ササ面積比率の低下が更新初期10年間に計3回あったと推察され, ササ抑制効果の持続期間は3年間程度であったと見積られた。 2005年には,更新木樹冠の面積比率は対照区で約24 %,処理区では70 %以上であり, 1979年のササ面積比率との間に負の相関が見られた。 2005年における更新林分の上層木密度は,上層平均樹高が同等の標準的な人工林に対し,対照区で24 %,処理区で61 %に相当した。 これらのことから,天然更新の成績向上に対するササ抑制処理の寄与が示唆された。

 上木疎開は林床の光量を増加させ、稚樹のみならずササの生育環境をも改善するため、 伐採後はササが一段と繁茂して稚樹の成長を阻害する。 伐採後のササの繁茂状況の変化と実生・稚樹の動態を結びつけ、ヒノキ稚樹がいつ、どのようにして定着し、 ササを超えるまでに成長して更新に成功したのか、その更新プロセスの解明が必要である。 しかし、航空写真の解析結果では、ササ抑制処理がヒノキ天然更新に与えた具体的な効果は具体的には明らかにできない。 このため、更新初期段階14年間の実生の発生と成長のデータを用い、抑制処理によるササの衰退ならびに回復過程と併せて解析し、 ヒノキ稚樹の定着時期と成長様式を明らかにした。 その結果、ササ抑制処理は多数の後生稚樹を発生させ、成長も促進させていた。 また、前生稚樹の存在に否定的であった予備調査結果と異なり、4000本 ha-1程度の前生稚樹の存在が確認された。 さらに、試験設計時に想定していた後更更新ではなく、前生稚樹を主体とした前更更新が進行していたことが明らかになった。 この結果は、多数の後生稚樹が発生したことから後更更新が進行しているとした従来の見解も覆すものであった。

 伐採の15年後(1984年)と39年後(2008年)の林分構造の変化を解析するとともに、 ササを抜いて更新したヒノキ稚樹がどのように現在の林分を構成しているかを明らかにした。 その結果、林冠疎開時に樹高が20 cm以上であった前生稚樹は全てササ丈を越え、更新林分の上層木となっていた。 一方、後生稚樹は伐採後最も早い時期に発生したコホートの一部を除いて林冠上層には到達できず、 林冠の下層木、または被圧木として存在していた。 上層木の林分密度を樹高が同等である人工林と比較するとやや疎であったものの、 これら上層木の空隙を、多数の後生稚樹が埋めることにより、林地のほぼ全体が更新林分で覆われていた。

このように、ササとの競合を強いられる条件下のヒノキの更新プロセスは前更更新が有利であり、 前更更新の進行には、樹高20 cm以上の前生稚樹を多数成立させることが有効であることが判明した。 これらを総合すると、漸伐作業法を用いた天然更新施業法を検討する価値が高いと判断される。