1.問題意識
近年,水稲作を主体とする経営には常時雇用オペレータを雇用して大規模な水稲生産を行う法人経営が増加している。
今日の農業経営の課題を,家族経営からの成長であるとみる視点からみれば,この動きは家族農業経営から企業農業経営へと成長する,
進むべき方向への歩みであるといえる。
大規模な企業農業経営の成立には生産力的優位性が必要であるといわれる。
企業農業経営を支援するには生産力的側面からの成長理論が必要である。
しかしこれまでの研究成果は,必ずしも大規模な経営が高い生産力的優位性を有しているとは明示していない。
生物を対象とする農業労働の特殊性が関わっていると思われる。
大規模経営でさえ個々にみると単位面積当たり労働時間にはばらつきがみられる。
そのなかで生産性の高い経営に着目し,その生産力解析が必要であろう。
本研究の目的は,企業農業経営へと成長した事例を取り上げて解析し,
水稲作の生産性に関わる要因と生産性向上のメカニズムを明らかにすることである。
2.方法
今日の大規模稲作の特徴は,大型機械・施設及び雇用労働を利用する作業構造にある。
生産性の解析では生産力構成要素の性状,機能状態とともに,もう一方からは生産の目標である
1シーズン当たり生産量に関わる要因を同時にとりあげ,経営研究ではあまり行わない作業時間分析を行なうことで,
主要な作業の労働能率,作業能率に関わる生産性向上の要因を明らかにする。
また作業構造の違い,特に従事者数の違いと労働能率,作業能率の解析から,
作業構造,作業方式の違いに由来する生産性向上要因を明らかにする。
これらの生産性向上要因の適用に差のある作業構造モデルをつくり,
その分析によって大規模な作業構造の有利性の有無がみられるかどうかの実証を行う。
生産性向上のメカニズムは,経営的側面の生産性向上要因適用の段階性と,
企業的側面及び経営者の意思,管理等の側面を加えた事例解析を行うことで明らかにする。
3.結果
(1) 作業時間分析や作業構造分析の結果得られた生産性向上要因は,次のようである。
①技能の優れたオペレータがいること,そして常時従事者であること。
②機械化を進めること,大型機械であること。
③地耐力のある,広い水田であること。
④協業的分業体制がとれる人数がいること。
⑤適度な範囲内で労働強度をあげること。
⑥協業的分業で専門化をすすめること。
⑦個別作業時間を長くすること。
⑧作業法をかえること。また1シーズン中の作業面積の極大化には,次のような要因がある。
?機械の利用率を高めること。
?1日の稼働時間を長くすること。
?作業期間の長期化を図ること。
(2) 基幹的な要因であるオペレータについては,これまで明らかでなかった技能に関し,
経営者が評価する技能と育成法等の糸口を明らかにすることができた。
高い技能とは,対象の状態把握が困難な作業や,細やかな調整を必要とする作業,
同時操作を多く必要とする機械作業が可能なことである。
高い技能は作業従事が継続的で従事時間を多くすることができることで獲得でき,常時雇用オペレータが望ましい。
(3) 生産性向上要因の適用格差を考慮し,作業構造の違いを反映させたモデルを作成し,
同一期間内の1シーズン当たり作業面積を算出した結果,従事者1人・1日(8h)当たり
作業面積は作業構造の高い段階にあるモデルほど多いことが証明された。
(4) 企業農業経営段階では,作業構造が高いほど経済的スタッフの活用で単位面積当たり労働費の節減ができ,
また機械・設備における装備数の抑制,利用率増大,長期間活用による機械・設備費の低減が可能となる。
作業構造別モデルを作成して試算した結果,作業面積規模が大きくなるほど,単位面積当たり作業関連費用が低下する傾向が確認された。
(5) 3つの事例を取り上げて作業構造高度化の過程を生産性向上要因の適用状態,
私経済性及び経営者の意思等の側面から解析した結果,
概ね作業構造の成長段階で明らかにした生産性向上要因適用の順序に収益面の要因が加わって,
より高い生産性が発揮される作業構造が形成されてゆく過程が明らかとなった。
この分析から,成長の意思を有する経営者がいることが,生産性向上の基本的要因であると判断された。
このように,作業構造を高度化させることによって生産性を高めることが可能であるが,
それには作業構造のもつ能力を発揮させる経営者の適切な管理の行われることが必要である。
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