氏 名 | すがわら てつや 菅原 哲也 |
本籍(国籍) | 山形県 |
学位の種類 | 博士 (農学) | 学位記番号 | 連研 第515号 |
学位授与年月日 | 平成22年9月24日 | 学位授与の要件 | 学位規則第5条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 生物生産科学専攻 | ||
学位論文題目 | 食用ギクに含まれるフラボノイドとその生理機能に関する研究 ( Studies on major flavonoids in petals of edible chrysanthemum flowers and their physiological functions ) |
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論文の内容の要旨 | |||
食用ギクはキク科, キク属の多年草であり, 中国原産で8世紀に日本へ渡来し, 観賞用として栽培されていたものが選抜され, 花弁を食する習慣は江戸時代から始まったとされている。 山形県は食用ギクの生産規模が全国1位であり, 作付面積が154ha,年間収穫量が1280tである(平成17年)。 食用ギクは, 現在では主に「おひたし」や「酢の物」として食されるが, 元来中国では不老長寿の霊草とされ, 薬用として利用された経緯がある。 これまで食用ギクの生理機能や活性成分に関して様々な報告があり, その中でも近年, 健康維持や各種疾病の予防に効果があるとされているポリフェノール成分が注目されている。 特に国内で栽培される食用ギクに関して, フラボノイドの含有量が高いとする報告があるものの, その詳細な化学構造や生理機能に関する研究は, ほとんど実施されていない。 本研究において, 山形県で最も収穫量が多い栽培品種である'コトブキ'から, 各種カラムクロマトグラフィー等を用いて, フラボノイド6種を単離・精製し, 機器分析により, その化学構造を決定した。 構造決定したフラボノイド6種のうち, 3種はこれまでに報告のない新規な化合物であった。 単離したフラボノイドおよびそのアグリコンについて, ラジカル消去活性を比較し, 構造相関を明らかにした。 現在, 脂肪肝を含めると日本人成人の30%が肝機能障害を持つといわれている。 また, 和食材の中には潜在的に肝機能改善効果を持つものが多いと予想され, それら成分の探索研究が活発に行われている。 また, 2000年以上前に記述された中国漢方の医薬書である「新農本草経」には, 食用ギクの肝臓に対する効能が記載されている。 そこで, 食用ギクに含まれるフラボノイドの肝臓における生理活性を評価するため, 食用ギク'コトブキ'より単離した, 主要なフラボノイド4種について, マウスを使用し, 四塩化炭素が誘発する急性肝障害の抑制効果について検討を行った。 その結果, ルテオリンおよびルテオリン7-O -(6"-O -マロニル)-グルコシドを経口投与した後, 肝障害を誘発したマウスは, 対照群(フラボノイドを投与せずに肝障害を誘発した群)と比較し, 肝障害による血漿AST, およびALTの上昇が有意に抑制されることを明らかにした。 さらに, これらフラボノイドを投与したマウスの肝臓における過酸化脂質濃度も対照群と比較し有意に低い値を示した。 また, これらフラボノイドを投与したマウスの血漿からは, フラボノイドのアグリコンおよび代謝物が検出された。 2003年の厚生労働省の糖尿病実態調査によると, 日本で「糖尿病を強く疑われる人」が約740万人, 「糖尿病の可能性が否定できない人」が約880万人で, 合計1620万人と推定された。 また, 全糖尿病患者の約90%がインスリン抵抗性を特徴とするⅡ型糖尿病であり, その発症には過食や運動不足による肥満, ストレス等様々な生活習慣が関与していることが指摘されている。 食用ギクより単離されたフラボノイド(2種)を, 餌に混合して投与した際の肥満型糖尿病への効果について, KK-Ayマウスを使用し詳細に検討した。 その結果, 対照群(フラボノイドを投与しないKK-Ayマウス)と比較して, フラボノイド投与群では, 30日後の血清におけるHbA1c値が有意に低値を示すとともに, 血清グルコース濃度も低下の傾向を示した。 また, ルテオリン7-O -(6"-O -マロニル)-グルコシド投与群では, 血清のコレステロール濃度も対照群と比較し, 有意に低い値を示した。 肝臓における脂質成分では, フラボノイド投与群において, 対照群と比較し, 肝臓のトリグリセリド濃度およびコレステロール濃度が有意に低い値を示し, これらフラボノイドは肝臓において脂質代謝改善効果も有することを明らかにした。 最後に, 本県では季節毎に栽培・収穫される食用ギクの栽培品種が異なっており, 各栽培品種の, 詳細なフラボノイド組成とその生理機能の解明が必要とされている。 そこで, 山形県で栽培される主要な食用ギク各栽培品種(4種)のフラボノイド含有量(成分組成)を明らかにするとともに, その生理機能として, 食用ギク各栽培品種より調製したポリフェノールのラジカル消去活性を品種間で比較した。 その結果, いずれの食用ギクにもルテオリン7-O -(6"-O -マロニル)-グルコシド, アピゲニン7-O -(6"-O -マロニル)-グルコシド, アカセチン7-O -(6"-O -マロニル)-グルコシドが含まれていたが, その含有量は品種により大きく異なっていた。 また, 各品種ポリフェノール画分のラジカル消去活性はモッテノホカ(黄色花弁)において最も強く, 次いでコトブキ, イワカゼ, モッテノホカ(紫色花弁)における順であった。 |