氏 名 たかはし ひでこ
?橋 秀子
本籍(国籍) 宮城県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第140号
学位授与年月日 平成22年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 コマツナおよび根菜類等のカドミウム吸収の特性
( Characteristics of cadmium uptake by komatsuna ( Brassica rapa L. var. perviridis ) and root crops )
論文の内容の要旨

 食糧生産の場である土壌環境のカドミウム(Cd)汚染は深刻な問題であり、その解決のための対策がたてられている。 国際的なCd基準値として2005年に、Codex Alimentarius Commission(CAC)で野菜類の基準値が制定された。 また、農林水産省の国内産農産物のCd濃度調査報告(2002)で、CAC基準値案を超える試料があることが指摘され、 農産物中のCd濃度低減化の研究が活発になった。

 本研究では、高濃度のCd汚染土壌を用い野菜の栽培を行った。 研究の目的は、根菜類の栽培実験を行い、それらのCd吸収の比較を行い、根菜の選択に関する情報を得ることであった。 さらに、Cd吸収の高いとされる葉菜では、その栽培土壌の改良を行なうことで安全な野菜生産が可能になると考え、 野菜に対するCd吸収抑制効果の比較検討を行った。 それにより、作物のCd吸収の特性、および土壌添加剤の施用効果の関連についての知見を得た。

 実験圃場は、宮城県北にある閉鎖鉱山から約8km離れた非農地かつ非宅地である地に新規に設置した。 土壌は、pH 5.2、0.1 mol L-1 HCl 抽出Cd濃度乾土当り5.3 μg g-1、 有機物含量1.9 %、陽イオン交換容量(1 mol L-1酢酸アンモニウムpH 7.0抽出) 25.5 cmol kg-1、 砂と粘土含量は58と10 %であった。 栽培圃場は、日本の土壌の平均値(同上の抽出法により0.086 μg g-1)の60倍を超えるCd量を示し、高濃度にCdに汚染されていた。

 実験では、Cd吸収が高いと報告されているサトイモ(品種;土垂)、Cd吸収の情報が少ないダイコン(品種;春のめぐみ) 及びジャガイモ(品種;男爵)を露地栽培した。 サトイモ植物全体のCd濃度は3.5 mg /kg F.W.で、供試根菜類の中で最もカドミウム濃度が高く、 ジャガイモとダイコンの植物全体のCd濃度は、0.68と0.44 mg /kg F.W.で低値を示した。 サトイモのCd濃度はジャガイモの5倍、ダイコンの8倍以上になり、高Cd吸収になりやすい根菜といえた。 また、可食部のCd濃度は、各根菜中で最もCd濃度の低い部位で、そのCd濃度はサトイモ子芋が高く、 ジャガイモ芋とダイコン地下部は低値になった。 さらに、ダイコン地下部については、皮をむいた内部が0.09 mg Cd /kg F.W.、皮付きの上部が0.10 mg Cd /kg F.W.を示し、CAC基準値以下になった。 ダイコンはCd濃度の高い土壌で栽培してもその可食部のCd濃度は低く、供試根菜類の中では最も安全な根菜であることが解った。 しかし、地上部のCd濃度は初回の採取時(播種6週目)から地下部に比較し高く、生育が進行してもその含量は一定であった。 そのため、ダイコンについて、生育初期におけるCd吸収と、異なる品種間におけるCd吸収を検討するため、 ダイコンの2品種(春のめぐみ、秋舞台)の播種から9週目までの栽培実験を行った。 その結果、ダイコン2品種とも地上部のCd濃度は播種から6週までに増加し、それ以降の増加は少なかった。 生育の前半(播種から6週目まで)に地上部で活発なCd吸収があることが示された。 また、2品種間の地上部のCd濃度に有意差があったことから、品種間差異があることが判明した。 ダイコンの多くの品種におけるCd吸収の検討が必要と思われた。

 次に、ALC、レルゾライト、廃石膏、マグホワイト、炭カル石膏の5種類の添加剤のコマツナに対するCd吸収抑制効果を比較した。 添加剤を1 %(w/v)添加し、コマツナを2作あるいは3作まで連作を行った。 各添加剤を添加後の土壌pHは、マグホワイト区がpH 8.2で最も高く、炭カル石膏区>ALC区>レルゾライト区で、廃石膏にpH上昇効果はなかった。 マグホワイト区の1作目は中程度の生育促進であったが、2、3作目は良く生育を促進した。 炭カル石膏区は3作を通して高い生育促進効果を示した。 マグホワイトと炭カル石膏区は3作目まで土壌pHが高く保たれた。 ALC区は2作まで、レルゾライト区は1作目で生育を促進したが、以降の連作では生育が低下した。 廃石膏区に生育促進効果はなかった。 土壌添加剤による生育促進効果は土壌pHの上昇効果と一致した。 植物のCd濃度は、土壌pH上昇効果の高い添加剤マグホワイト、炭カル石膏で抑制された。 土壌pH上昇による植物のCd吸収抑制効果は既存の知見であるが、5種類の添加剤の結果を総合した時、 土壌pHと植物のCd濃度の間に高い相関係数(R2=0.916)を示す関数式が得られた。 この点は新規性があると思われた。 Cd集積量は土壌pHが5.5前後を示す添加剤の区で最大量を示した。 特に、ALC区の2作目とレルゾライトの1作目のCd集積量が高くなった。 また、植物のCd濃度とZn、Mn、Cu濃度間に正の相関がみられた。

 土壌中の0.1 mol /L-1酢酸アンモニウム(pH 7.0)抽出画分(交換態画分)のCd濃度は コマツナのCd濃度と正の相関(R2=0.809)があった。 また、交換態のCd濃度は土壌pHの上昇と 共に低下した。 0.1 mol /L-1 HCL抽出画分のCd濃度と植物のCd濃度の関連は高くなかった(R2=0.478)。

 Cd汚染地における野菜生産では、栽培野菜の選択、Cd吸収抑制剤の使用、農作物のCd吸収抑制栽培技術の開発、 そしてファイトレメデーションの推進が必要であり、本研究で得られた知見は、それらの進展に資するものと考えられる。