氏 名 こみやま せいいち
小宮山 誠一
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第139号
学位授与年月日 平成22年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 野菜類の品質向上のための栽培および評価法に関する研究
( Studies on Methods of Cultivation and Quality Evaluation of Vegetables for their Quality Improvement )
論文の内容の要旨

 本研究では国内生産量が多い野菜,すなわち,ジャガイモ,ダイコン,キャベツおよびスイカを対象に, それらの品質評価法および品質変動要因を詳細に検討した. これらの品目で重要な品質評価項目は,ジャガイモでは,食味および調理・加工適性などに影響を及ぼす「デンプン価」, ダイコンでは食味および調理加工適性に影響を及ぼす「テクスチャー」および「内部障害」の有無, キャベツではビタミンCおよびビタミンUなどの「栄養・機能性成分」, スイカでは食味に影響を及ぼす「糖度」と考えられることから,本研究では主にこれらの項目を中心に検討した.

 ジャガイモのデンプン価の違いが調理・加工特性に及ぼす影響について, デンプン含量で仕分けした試料(デンプン含量12~16%)を用いて,調理方法毎に検討した. 粉ふきいも,ふかしいも,電子レンジ加熱およびフライドポテトでは,デンプン含量が高いいもほどほくほく感に富み,食味総合評価は高かった. 肉じゃがおよびカレーでは,デンプン含量の低いいもほど煮くずれが少なく, 食味総合評価は高かった.デンプン含量が高いいもほど遊離アミノ酸含量は低く, とりわけうま味を呈するグルタミン酸含量は,デンプン含量15%以上で顕著に減少した.

 デンプン価に基づくジャガイモ選別のため,可視および近赤外分光法を用いた非破壊評価法を開発した. コンベアで分光測定部へ試料を連続的に供給しながら,ハロゲンランプ光源からの光を塊茎にあて, 対面するCCDエリアイメージセンサー(測定波長範囲730~930 nm)で透過光スペクトルを測定した. 比重法により求めた塊茎のデンプン価と本法で得られた2次微分スペクトルからPLS回帰分析により検量線を品種毎に作成した. 「男爵薯」,「メークイン」,「キタアカリ」の全規格込みの予測標準誤差(SEP)は,それぞれ0.87%,0.58%および0.86%であった. また,産地,付着土の有無および品温が測定精度に及ぼす影響は小さく,いずれの処理でもSEPは目標値の1%未満に抑えられた. ジャガイモ塊茎のデンプン価の非破壊測定および選別(毎秒約3.3個)が可能となった.

 異なるダイコン品種を用い,生,浅漬けおよび煮熟加工したダイコンのテクスチャー(硬さ)について, 物性測定機器による官能評価と整合性の高い客観的評価法を検討した. テクスチャーアナライザーを用い,ダイコンから調製したディスク試料(加工後,直径10 mm,厚さ5 mm)を, 円筒型プローブにより圧縮したときの破断時荷重により硬さを評価できた. 浅漬けおよび煮熟の場合,各調理加工後,その破断時荷重が試料間で各々13 Nおよび0.5 N以上の差があれば, 官能により硬さの差を明確に識別できると判断された. 生,浅漬けおよび煮熟加工後の試料の硬さに品種間差異が認められ,これらはペクチン含有率と密接に関係していた.

 可視・近赤外分光法を用いて,外観での判別が困難なダイコンのバーティシリウム黒点病症状を選果ライン上で 連続的に計測する方法を検討した. ダイコンの透過光2次微分スペクトルの主な極小ピークは560,740,840 nm付近,極大ピークは580,720,820 nm付近に認められた. この2次微分スペクトルには,発病指数に応じた明確な差が認められた. 2次微分スペクトルと発病指数(0~3の4段階)からPLS回帰分析により検量線を作成し, これを別の試料群に適用して精度を評価した結果,本法による推定発病指数と実際の発病指数との間の相関は R = 0.958(0.1%水準で有意差あり), SEP = 0.299と高精度な推定が可能であった. 推定発病指数の1を閾値として症状の有無を判定すると,実際の発病指数0(無症状)の試料は100%「症状なし」と判定され, 指数1の試料は91%,指数2以上の試料は100%が「症状あり」と判定された.

 キャベツのビタミンCおよびビタミンU含有率の実態を明らかにし,これらの含有率に影響を及ぼす栽培上の各種要因について検討した. ビタミンC含有率は,最低163 mg kg-1~最高590 mg kg-1の範囲に分布し,平均で343mg kg-1であった. ビタミンC含有率は7~9月どりものものと比べ,10月どり作型で高くなった. ビタミンC含有率は,過剰な窒素施用を控え,早どりすることにより向上できた. RQフレックスによる簡易ビタミンC含有率測定法を示した. ビタミンU含有率は,最低7.0 mg kg-1~最高66.2 mg kg-1の範囲に分布し,平均で28.9 mg kg-1であった. 各作期別のビタミンU含有率は,7月収穫で最も高く,次いで8月,9月,10月収穫の順で低かった. ビタミンU含有率は,窒素吸収との関連が認められ,窒素の低栄養条件下で低く,窒素施用量の増加に伴って高まった. 秋どり作型よりも窒素供給の多い夏どり作型,窒素供給能の低い圃場より高い圃場, 緩効性の有機質肥料よりも速効性の有機質肥料で,ビタミンU含有率は高まった.

 スイカに対する各種有機質肥料の収量および品質に及ぼす影響について, 窒素供給(肥料の窒素無機化特性)および窒素吸収(スイカの窒素吸収特性)の観点から検討した. インキュベーション試験により各種有機質肥料の窒素無機化特性を明らかにした. 養液栽培による生育ステージ別窒素供給試験から,スイカの好適窒素吸収時期は定植~果実肥大前期であることを示した. スイカに対する有機質肥料施用時には,その好適窒素供給時期に効率的に窒素供給が可能な速効性の有機質肥料が 収量および品質の向上に適当であると判断された.