日本の多くの河川では,昭和30~50年代にかけて急速な河床低下が進行した.
その要因は,建設材料としての砂利採取や治水上の必要性から実施された河道掘削による.
河川を横断して設置される頭首工は,このような河床低下により直下流の河床洗掘が引き起こされ,堰体の安全が脅かされている.
この河床低下の実態を分析し,軽減対策を検討することが本研究の目的である.
河床洗掘の洗掘位置や深さは,洪水時の水流の蛇行と密接に関係するので,
頭首工上下流区間の砂礫堆形成という観点から考察を加える必要があり,
砂礫堆形成と水流蛇行が再現された直線と蛇行水路による実験と現地頭首工事例によって検証することで,
堰下流河床洗掘の発生メカニズムの究明を行った.
さらに,現地頭首工で採用されている災害軽減対策工の効果について水路実験により解析を行った.
1.堰下流河床洗掘の要因解明
堰と河川砂礫堆との位置関係および全体的な河床低下の影響という2つの観点から,水路実験により解析を進め,以下のような結果を得た.
(1) 堰下流の河床洗掘は,堰と砂礫堆との相対的な位置関係によって,その形状と深掘れ深が変化する.
水路側岸沿いに河床が低くなる淵部であって,しかも水衝部付近を横断する位置に,
堰が配置された場合に洗掘の範囲が拡大し,深く掘れる.
そのため,全体的な河床低下が起きていない状態であっても,堰下流の河床洗掘が発生する.
(2) 砂礫堆の先端部付近の瀬の部分を横断するような位置にある堰の場合,直線水路であっても,
蛇行水路であっても堰下流の深掘れは比較的小さくなる.
砂礫堆との相対的位置を考慮して,堰位置を選定することが重要である.
(3) 直線水路で砂礫堆が移動する区間に堰が設置された場合は,砂礫堆の移動に伴って深掘れの位置や規模も左右に移動する.
(4) 全体的な河床低下を想定して,初期砂床均し高を切り下げた場合,堰下流の深掘れは横断方向と下流方向の両方に拡大する.
その際,洗掘の深さも大きくなる.
(5) 流量変化の影響については,流量の増加に伴い,堰下流洗掘の範囲と深さが大きくなった.
この結果は,大洪水が発生した場合に,下流河岸の浸食や護床工の損壊などの災害が発生する事実を裏付けるものである.
2.災害防止対策工の効果
現地頭首工で,下流河床低下による被害を防止するため採用されることが多い2段護床工及び斜路式護床工の効果について,
水路実験により解析を進めたところ,以下のような結果が得られた.
(1) 2段護床工及び斜路式護床工を設置しても,堰下流の河床洗掘は,堰と砂礫堆との相対的な位置関係によって,
その形状と深掘れ深は対策工が無い場合と同様に変化し,堰下流の河床洗掘も発生する.
(2) しかし,2段式護床工及び斜路式護床工を設置することで,下流の深掘れは軽減される.
特に2段式護床工での軽減効果が大きい.
また,流量が大きくなっても下流の深掘れ深が増大しないことから,災害防止効果が大きいことがわかる.
(3) 表面流況を観察した結果,対策工を設置していない場合には,堰を越えた直下で発生する落下流が,河床の深掘れの要因となっている.
2段式護床工や斜路式護床工では掃流状態での流下が卓越することにより,河床洗掘が軽減されるものと考えられる.
3.今後の課題
(1) 災害防止対策工として,2段式護床工と斜路式護床工で,下流深掘れの軽減効果を明らかにした.
今後は,落差高や縦断方向の長さなどの形状を変化させた護床工において実験を進め,より効果的な対策工法を検討する必要がある.
(2) 頭首工の問題には,上流側護床工の流亡災害や可動堰ゲート直下の堆砂トラブルなどがある.
これらの課題についても発生要因の究明と対策工法を検討し,頭首工の計画・設計に関する技術指針の提案が必要である.
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