氏 名 ショオ ジン
肖  靖
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第508号
学位授与年月日 平成22年3月31日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 Allium schoenoprasum L.における鱗茎形成因子の遺伝的解明に関する研究
( A study on inheritance of bulb formation in Allium schoenoprasum L. )
論文の内容の要旨

 ネギ属植物( Allium L.)はタマネギ(A. cepa L.)やニンニク(A. sativum L.)など 鱗茎を形成する結球型とネギ( A. fistulosum L.)やニラ( A. tuberosum Rott.)など鱗茎を形成しない非結球型に大別されるが, 結球・非結球性に関する遺伝的背景については, 種内に両タイプの植物を持つ種が少ないことから,研究が少なく明らかにされていない。 本論文は,ネギ属の鱗茎形成因子の遺伝的解明を目的に,鱗茎を形成しないチャイブ( A .schoenoprasum L.)と その変種で鱗茎を形成するアサツキ( A .schoenoprasum var. foliosum Regel )を用いて, F1およびBC1を獲得し,結球の分離様式の解明,RAPDマーカーによる鱗茎形成遺伝子の探索 および in vitro における鱗茎形成条件の確立について,以下の実験で検討した。

1.A .schoenoprasum L.における変種間正逆交雑および戻し交雑
 チャイブ(3系統)とアサツキ(10系統)間の正逆交配(F1)およびF1とアサツキとの戻し交配(BC1)を行い, 結球性の分離比を調査した結果,F1個体の15組合せ中で着果が認められた。 獲得種子数はアサツキを種子親に用いた場合よりも,チャイブを種子親に用いた場合で多く,また同一系統内での差が大きかった。 得られた種子を播種したところ,一部の組合せを除いたすべての組合せで発芽が認められ,その発芽率は50.0~90.0%と変異がみられた。 BC1種子を獲得するため,チャイブ×アサツキのF1個体を種子親にしてアサツキを戻し交配, およびアサツキを種子親にしてF1個体を戻し交配して29組合せを行った。 その結果,アサツキの3系統(新潟,岩泉,アルプス)を種子親にした組合せでは種子が得られなかったが, その他の組合せではすべて種子が獲得でき,獲得種子数は1粒~55粒まで多様であった。 しかし,その種子数は,いずれの組み合わせにおいてもF1個体で得られた種子数よりも少なかった。 F1およびBC1が作出されたことから,チャイブとアサツキの変種間交雑は高い交雑和合性を持つことが明らかになった。

2.A. schoenoprasum L.における鱗茎形成の遺伝性の調査
 F1個体およびBC1個体について鱗茎肥大の有無を調査した。 すべてのF1個体は鱗茎を肥大しなかった。 一方,BC1個体の鱗茎形成は,外観上,非結球型および結球型の2つのタイプが観察された。 しかし,一般に両タイプの分類に用いられている鱗茎肥大率(最大球茎直径/最大葉鞘直径)の調査では変異が連続的であったことから, 結球型と非結球型を区別することは困難であった。 そこで,鱗茎内の最大鱗葉厚を調査した結果,結球型,中間型および非結球型の3タイプに分類でき,ほぼ1:2:1に分離した。 これらの結果より,A. schoenoprasum における鱗茎形成には,少なくとも2つ以上の劣性遺伝子が関与していることが示唆された。 3.バルク法を用いたRAPD分析による鱗茎形成遺伝子の探索
 最大鱗葉厚を指標として結球型と非結球型を選抜し,それぞれ結球集団,非結球集団として5個体によるバルク法を用いたRAPD分析を行なった。 200種類のプライマーのうち, 11種類のプライマーで両集団間に特異的なバンドが得られた。 この11種類のプライマーを用いて個体レベルのRAPD分析を行なった結果,A 48,A 58,A73,B50,B52の5プライマーにおいて, 4個体以上で多型バンドが得られた。 しかし,バルクに用いた個体以外の個体では,最大鱗葉厚による分類結果と一致しなかったため, それらのマーカーは鱗茎形成または非鱗茎形成と連鎖している可能性は低いと考えられた。

4.in vitro における鱗茎形成条件の確立
 アサツキ1系統を用いて温度と日長が鱗茎形成に与える影響を in vitro で調査した。 温度処理は5℃,10℃,25℃(いずれも暗黒下,30日間)の3処理区,日長処理は温度処理終了後, 25℃下で,8時間(90日間),8時間(45日間)+16時間(45日間),16時間(90日間)の3処理区を設けた。 25℃処理区では日長にかかわらず生育できなかった。 最も鱗茎が肥大した処理区は,5℃および10℃の16時間日長処理で,温度による有意差はなかった。 8時間+16時間日長処理では10℃処理区が5℃処理区よりも鱗茎肥大が有意に優った。 以上の結果,10℃,16時間日長で鱗茎肥大を促進することが認められ,本条件で鱗茎形成の早期選抜が可能と判断された。

 以上の結果から,変種であるチャイブとアサツキには高い交雑親和性があり, BC1世代において結球型,非結球型および中間型の3タイプに分離でき, 鱗茎形成の遺伝様式を明らかにするとともにバルク法RAPD分析により鱗茎形成遺伝子の探索のための重要な情報を得ることが出来た。 また,鱗茎形成の早期選抜を in vitro で行うための培養条件を明らかにした。