氏 名 はらだ ゆうすけ
原田 裕介
本籍(国籍) 愛知県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第504号
学位授与年月日 平成22年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 寒冷地における農地の土壌凍結融解と消雪時期の推定
( Estimation for the disappearance dates of snow cover and frozen ground on the farmland in cold region )
論文の内容の要旨

 この研究では,農地の土壌凍結と融解及び農地の融雪特性を分析することにより, 寒冷地における農地の土壌凍結融解時期と消雪時期の推定方法, 農作業機械の大型化や気象条件の変動を考慮した農地の早期消雪対策を一考した。 その結果,農地において積雪深20cmまでの積算寒度と,根雪期間完了日を確定することによって, 凍土消失日の推定が可能となった。そこで,定量的な農作業開始計画の策定の可能性を見出すことができた。

1.農地の土壌凍結融解と融雪の特性

 農地においては,土壌凍結期間は根雪期間に影響される。 特に,根雪期間の中で凍結深を左右する初冬の少積雪期間は長いほど, また積雪深が大きくなった後の根雪期間が長くなるほど,凍結期間と深さは長くなる。 帯広畜産大学実験圃場では,28年間の観測結果から土壌凍結の進行を抑制する積雪深は20cmであった。 土壌凍結期間,根雪期間,積雪深20cm到達日,及び凍土の融解開始日は, 年次ごとに降積雪深の推移が異なるためバラツキが見られた。 土壌凍結開始から積雪深20cm到達日までの日数が長いほど,凍土の融解期間も長くなる傾向がある。 土壌凍結は,寒さだけでなく初冬にある程度の積雪があれば抑制され, 春期に積雪があれば凍土の融解を妨げる断熱効果をもたらす積雪の影響が大きい。
 十勝地方は,旬平均積雪深の積算値により4つの異なる積雪地域に区分される。 根雪期間は,少積雪地域から最多積雪地域にかけて増加する傾向にある。 このことから,土壌凍結深の積雪深の推移は,年次や地域によって異なっている。
 多数の積雪深の観測の結果,農地の消雪は雪面全体で均一に起こるのではなく, 最初にある部分で発生し,そこから伝播するように拡大することが示された。 また,農地に対する雪面の消失の割合を示す消雪率を算出し,融雪期間を融雪期,消雪期,再消雪期の3つに分類した。 融雪速度は融雪期の日射,消雪期は土壌露出面,再消雪期は地温による影響が大きかった。

2.農地の土壌凍結融解と消雪時期の推定方法

 28冬期にわたる積雪下の土壌凍結融解の長期観測により,凍土消失日の推定が可能となった。 最大凍結深 max(cm)は積雪深20cmまでの積算寒度F20(℃・days)の平方根に比例する。 このことから,冬期前半に発生するF20がわかると,実験式から求まる比例係数は2.48となる。 つぎに,長期観測から最大凍結深 maxと凍結消失深さ(cm)の関係式が得られた。 この関係式を使用すると,根雪期間完了日から凍土消失日までの積算暖度T(℃・days)と凍土消失深さ との 関係が得られる。 ここで,長期観測に基づくと,比例係数は4.27が算出された。 さらに, を移行した式によって,根雪期間完了日を観測で確定すれば, 完了日以降の気温データを使って,凍土消失日を推定することができた。
 各々の平均二乗誤差は,最大凍結深 maxが6.3cm,凍土消失深さ が5.7cm, 凍土消失日が2.5日になった。 新たな降雨や表土の再凍結がなければ,上述の精度で予測が可能になる。
 根雪期間完了日は,農地内では積雪深が異なるため一様でない。 また,融雪剤の散布や農作業機械での除雪作業などにより,人為的に消雪を早めることが可能である。 そこで,農地の消雪時期の評価基準を明らかにした。農地の消雪時期の推定方法は,定点カメラの画像を用いて, 消雪率と消雪開始日を決定する。 積算日射量により消雪率100%の起日を求めるものである。 農地の消雪率は,消雪開始日からの積算日射量と相関係数0.9以上の強い相関を示す結果が得られ,十分に評価できた。

3.今後に向けた提案

(1) 評価基準にもとづく農作業作業開始時期の判断
 これまでは,農作業の開始は,農家の従来の経験をもとに判断されてきた。 本論で得た農地の土壌凍結融解と消雪時期の推定方法などの評価基準にもとづいて, 北海道東部地域で農作業作業開始時期を判断することが提案できる。

(2) 農地の消雪促進手法
 現在,農地の消雪促進は,主に雪面黒化法で行われている。 農業機械の大型化や気象条件の変動を考慮すると,実験から得られた観測から今後は農地の土壌露出面を効率的に拡大し, 消雪を促進することを検討すべきと考える。 また,農地の消雪は,消雪開始日から根雪期間完了日までの期間をできるだけ短期にすることが望ましい。 防風林や畦際などの吹きだまりなどにより消雪が遅延する箇所は,消雪を促進させる。 農産物の収量向上のためには,農地面がほぼ一様に消雪するよう,消雪遅延箇所の人為的な消雪促進を図ることが期待される。