氏 名 マハルジャン ガウリ
MAHARJAN, Gauri
本籍(国籍) ネパール
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第503号
学位授与年月日 平成22年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 画像処理を利用したイネ病気のWeb診断支援システムに関する研究
( Development of a support system for Web-based diagnosis of rice diseases using image processing )
論文の内容の要旨

 本研究は,農業者が水田ほ場で撮影したイネの未知病気画像を対象に, Web上で病気の自動判別処理と検索を行う早期病気診断支援システムの開発が目的である。 本論文では,画像特徴が類似したイネ病気を対象とし,システム側で自動的に病状を判別するために必要となる, 1)病状画像内から病状領域を抽出する方法,2)色及び形状特徴によるパターン判別分析法とその精度, 3)イネ病状特徴の分光反射特性について実験・検討を行い,4)パターン判別分析法を利用した病名判定法の適用について考察した。

 1)イネ病気6種類の病状画像について,2値化処理により病状領域の抽出を試みた。 病気箇所の色相Hと彩度Sの波形分布を観察し,健全部との境界付近の値から手動でしきい値を決めた場合, 92%の画像はHまたはSによって良好に抽出された。 病気によって発病後の初期段階では病状部と健全部の境界が不明瞭な場合もあり, それらの画像は抽出領域が多少変動した。 また,3種類の病気について,健全部のHまたはSと手動で決定した2値化の最適値の間に相関関係がみられたため, それらの単回帰式より推定したしきい値で病斑部の抽出を試みた。 その結果,推定値による抽出面積が最適値による抽出面積に対し±20%以内の画像枚数は全体の65%, ±30%以内の画像は77%となった。 さらに,最適値の標準偏差値を利用してしきい値を決定したところ,±30%以内の画像は全体の88%となり改善がみられた。 これらより,健全部の色特徴をもとにした病状領域の自動抽出法を利用できることが分かった。

 2)病状の外観特徴からその病気の判別・分類を行う方法を確立するために, イネ病気3種類4病状区を対象に,色及び形状特徴などの判別条件と6種類の判別分析法(サポートベクターマシン(SVM), ニューラルネットワーク,集団学習,樹木モデル,線形判別分析,及び2次関数判別分析)の性能との関係を調べた結果, 円形度などの変数7個を用いた場合,4病状区の正判別率の平均は,それぞれ86%,80%,81%,76%,78%,及び81%となり, そのなかでSVM手法は各病状区の判別精度が80%以上で比較的安定した。 学習モデル作成時,同時に処理する病状区の組み合わせを2病状区ずつ, 3病状区ずつ及び4病状区に設定した条件で判別精度を調べた結果では,2病状区の場合正判別率がもっとも高く, 同時処理の病状区数が少ない学習モデルほど,テスト画像の処理回数が多くなるものの,判別精度が向上することが分かった。

 3)画像処理を利用したWeb診断支援システムの一環として,葉いもちと紋枯病を対象に, ハイパースペクトルカメラ撮影により病状部位及び健全部位の分光反射特性を検討した。 その結果は次の通りであった。 各病気における健全部と病状部の反射率は485nm,545nm,675 nm付近の波長のいずれかで10%~30%の差があった。 葉いもちと紋枯病の間には,675nmか750nm付近,又は900nm付近の反射率で10%~35%の差があり, 675nm付近や750nm以上で波形に違いがみられた。 また,健全部と病状部の反射率の比を調べた結果,665~680 nmでピークがみられ, 葉いもち(罹病型)はその値が4以上であったのに対し,紋枯病は2以下であった。 さらに,4種の植生指数による有意差検定ではいずれの指数も葉いもちと紋枯病の間に1%水準で有意差があった。

 4)判別精度の向上とWeb上で多種類のイネ病気の判別への適用に重点を置いて2種類の病名判定方式を考案し, シミュレーションを行い検討した。 まず形状変数のみを使って判別分析を行い,次に形状と色変数を同時に利用する第1方式では, 6種類の判別分析法とも平均正判別率は80~90%の範囲にあった。 その中で,SVM,EL, QDAは各病状区において80~95%の精度を示し,4病状区一括で判別分析を行う場合より安定した結果となった。 SVMを用いて,病状区の組み合わせ数を2区として学習モデルを作成する第2方式では, 葉いもち(罹病型)と紋枯病の判別精度がそれぞれ90%と94%となった。 なお,葉いもち(抵抗型)とごま葉枯病はそれぞれ81%と71%となり,4病状区一括で処理する場合とほぼ同じであった。 これらの方法は,病状区間での類似性を評価して判別処理に利用することができるため, 多種類の病気を取り扱う場合有効になると思われる。

 以上の結果は,病害の早期診断支援システムの実現に繋がる基礎資料といえる。 このような自動診断方法を実際にWeb上で利用するためには,病状画像の送信条件, 及び判別分析システムの構成と操作法などに関する検討が今後の課題である。 また,病気の診断精度をさらに向上させるためには,発生状況,気象情報などの非画像情報も判別処理過程で使用することが必要である。