氏 名 チェン チンメイ
権  慶梅
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第502号
学位授与年月日 平成22年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 総合農協の事業兼営に関する研究~日・韓・中の信用事業を中心に~
( A Study of Business Practices in Multi-Purpose Agricultural Cooperatives:An Analysis of Credit Businesses in Japan, South Korea and China. )
論文の内容の要旨

 農業、農村構造において共通点の多い日本と韓国は、 経済事業と信用事業を兼営する総合農協形態をとっており、零細な家族経営が必要なモノとカネを供給し、 地域全体における農村経済や農家経済の発展に大きく貢献してきた。 しかし、近年、経済のグローバル化や金融の自由化、農産物貿易の自由化など農業・農協をめぐる環境変化が激しい中、 日本、韓国の農協はともに農協改革の渦中にある。 とくに、農協の信用事業分離論が農協改革の核心課題となっており、総合農協そのものの存在意義が問われている。 一方、日本、韓国とは対照的に、中国では専門農協である農民専業合作社の事業兼営が認められ、 総合農協形態の導入を目指す動きが注目されている。 本稿は、日本の総合農協を軸に、韓国の総合農協、中国の資金互助社と農民専業合作社を研究対象とし、 農協信用事業および4事業兼営の意義を考察することから、中国の農村協同組合金融の発展方向への展望を試みた。 本稿で行われた分析の結果を各章別に簡単にまとめると以下の通りである。

 第1に、日本全国総合農協の動向をみると、農協数の減少、組合員の多様化、農協主要事業量の減少、 事業収益力の低下などの特徴が挙げられる。 近年、信用事業の収益力の低下が顕著となり、従来の信用・共済事業依存の収支構造は崩壊しつつある。 信用事業の経営不振を問題とし、信用事業を分離すべきという農協批判に対して、 農協系統組織の自主的な農協改革が行なわれたが、依然として総合農協の解体論は絶えることなく、 農協信用事業は一層厳しい基準をクリアすることが求められている。

 第2に、小規模販売型の野辺地町農協の事例分析を通じて、それぞれの農協発展段階において農協信用事業役割の変化がみられたが、 信用事業は農業生産と農家経済の発展を促進し、経済事業を始めとする農協各事業と良好な循環関係を持っているため、 農協総合事業において極めて重要な一事業であるといえる。

 第3に、総合農協形態である韓国農協中央会と単位農協の事業経営はともに信用事業に大きく依存しているため、 経済事業が軽視される傾向にある。 現在、農協中央会の信用事業と経済事業の分離によって経済事業の活性化を図ろうとしているが、 両者は相互の発展を妨げる存在ではない。 事例農協において、信用事業が経済事業の積極的な取り組みを支え、農家所得の向上を可能にしているからである。

 第4に、中国の資金互助社と農民専業合作社内部の融資機能は、 他の正規金融機関が満たしていない組合員の資金需要をある程度満たし、結果的に農業生産の発展と農家の収入増加につながっている。 現段階では、両者ともに融資条件が厳しく、多くの農家組合員が融資を受けられない問題を抱えているが、 経済事業と信用事業を兼営することで、農業生産に対応した融資や組合員間の資金需要を調整し、農家経済や組織経営の発展に貢献している。

 第5に、農協信用事業は農協経営および農家経済の良好な循環を支えている役割を果たしており、 農協総合事業の一環として必要不可欠な存在である。 また、農協4事業兼営は農家経済と相関関係にあり、相互に作用し、支えながら発展を遂げている。 したがって、中国農民専業合作社にとって事業兼営をすることは必要不可欠で、 そのために法律の制定や貸出利率の自由設定などが早急に行われるべきである。

 以上のように、総合農協において、信用事業は農協各事業の発展を促進する役割を果たしながら、 他の事業と緊密な関係をもち、農家経済と農協経営の良好な循環を保つ役割を果たしている。 中国の農村協同組合金融の新展開いわゆる農民専業合作社の事業兼営化からも農協事業兼営の必然性がうかがえた。 中国の農民専業合作社は発展の初期段階にあるが、経済事業と信用事業の兼営が実現されたことは大きな進歩であり、 今後、中国の農業・農村・農民問題を解決するには、農民専業合作社の事業兼営による農業生産および農家経済の支援が必要不可欠である。