氏 名 きむら ふみひこ
木村 文彦
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第498号
学位授与年月日 平成22年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 担子菌による縮合型タンニンの生分解に関する研究
( Studies on Biodegradation of Condensed Tannins by Basidiomycetes )
論文の内容の要旨

 縮合型タンニンは、植物界に広く分布する高分子のポリフェノール成分であり、 幹、葉、種子、樹皮など多様な組織に存在している。 縮合型タンニンはタンパク質吸着能、抗酸化作用などの機能を有し、植物の防御物質として作用している。 さらに、落葉や根からの分泌などにより土壌中のタンパク質と難分解性の複合体を形成することで、 養分の消費や流失を抑制し、多様な生物種の涵養に寄与している。 このように自然界に普遍的に存在し、植物自身および生態系に重要な役割を果たしているにもかかわらず、 縮合型タンニンの分解機構はほとんど明らかにされていない。 そこで、本研究では微生物が有する縮合型タンニンの分解能力を評価し、 微生物の縮合型タンニン分解に対する培地組成の影響について検討した。 さらに、縮合型タンニン分解性の微生物の菌体外酵素による低分子モデル化合物の酸化反応を追跡した。 以下にその概要を示す。

 分解機構を解明するためのモデル微生物を選抜するため、縮合型タンニンを高度に分解する微生物のスクリーニングを行った。 第一のスクリーリングは、76種の担子菌を縮合型タンニンの豊富なスギ(Cryptomeria japonica)樹皮で培養し、 重量とMeOH抽出物の減少量が顕著だった19菌株を選抜した。 これらの菌株を14C標識した縮合型タンニンモデル化合物を添加した樹皮培地で培養し、 発生する14CO2の放射能を測定した。 その結果、Coriolus hirsutusLentinus edodes をはじめとした白色腐朽菌から明白な縮合型タンニンモデル化合物の 無機化が観測された。 培養期間中に最大の14CO2発生量を示した C. hirsutus K-2617の生育培地の基質残渣を抽出し、 GPCにより分子量分画を行ったところ、代謝の過程で縮合型タンニンが低分子化されることが明らかとなった。 褐色腐朽菌では、14C縮合型タンニンモデル化合物由来の14CO2の発生および低分子化は認められなかった。 以上の二段階のスクリーニングより、C. hirsutus K-2617、C. versicolor K-2615、L. edodes Is、 Lampteromyces japonicus Nnの4菌株を縮合型タンニンをよく分解する菌として選抜した。

 菌による縮合型タンニン分解の最適化のために、 液体培地中の養分および微量元素の組成が異なる場合の縮合型タンニン分解活性の変化を測定した。 14C縮合型タンニンを含むHigh-C/Low-N培地で上記の4菌株を培養したところ、 L. edodes Isは培養期間を通じて高い縮合型タンニンの分解活性を示した。 そこで、グルコースおよびpeptone濃度が L. edodes Isの縮合型タンニン分解活性に影響を及ぼすかを調べた。 グルコースは濃度依存的に分解活性を増加させたが、peptoneからは濃度的な規則性を見出せなかった。 最大の分解活性はグルコース20 g/l、peptone 0.3 g/lの場合に観測された。 白色腐朽菌のみが縮合型タンニンを分解したことで、リグニン分解酵素の関与が示唆された。 そのため、ラッカーゼおよびマンガンペルオキシダーゼ(MnP)の誘導因子であるCu(II)およびMn(II)の影響について調べた。 Cu(II)は14CO2にそれほど変化を与えなかったが、 Mn(II)非添加の場合、14CO2発生量は顕著に低下した。 各濃度条件で培養した培地のラッカーゼおよびMnP活性を測定したところ、Cu(II)はいずれの酵素にも大きな差を与えなかった。 Mn(II)非添加培地では、十分なMnP活性が認められたが、ラッカーゼ活性はほとんど検出されなかった。 また、縮合型タンニンを非添加培地からもラッカーゼ活性はほとんど検出されなかった。 これらの事実は縮合型タンニンの分解にラッカーゼが深く関与することを示唆した。

 菌体外酵素による縮合型タンニンの分解を追跡するため、 二量体であるプロシアニジンB3および部分構造を共有する4α-phloroglucinol catechinを L. edodes Isの培養ろ液で処理して、生成物を単離・同定した。 プロシアニジンB3からの生成物はユニット同士が付加したキノンメチドとその互変異体であった。 プロシアニジンB3の培養ろ液処理では、これらの成分がほぼ支配的であった。 4α-phloroglucinol catechin由来の生成物は、上記のようなキノンメチドがさらに酸化され、 新たにビフェニルと3,4-ジオールが形成されたようであった。 これらの酵素的変換はどの生育ステージからも確認された。 生成物の構造と生育期間的なパターンからラッカーゼの関与が強く示唆された。