氏 名 チェン イエミン
陳  業明
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第497号
学位授与年月日 平成22年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 Soymilk Compositions and Their effects on the Yuba Formation
( 豆乳成分およびそれらの湯葉形成における役割 )
論文の内容の要旨

 本研究は先ず豆乳各成分(oil body, タンパク質粒子,可溶性タンパク質)の性質を調べ, 次にそれらの湯葉形成への役割を検討した。 さらに,走査型電子顕微鏡による観察等を加え,湯葉形成のメカニズムを考察した。

 第1章では湯葉の起源,名前,性質,生産と消費,生産問題と本研究の目的を紹介した。

 第2章では大豆種子中のタンパク質,脂質と糖質の存在状態を調べ,それらが調製時どのように変化するかを検討した。 タンパク質はタンパク質貯蔵液胞(PSV)に,脂質はoil bodyに存在していた。 また,少量の澱粉粒子も確認された。 短時間の磨砕でPSVは壊れ,タンパク質は溶出するが,oil bodyと澱粉粒子は壊れず,分散する。 そのため,生豆乳はoil body, 澱粉粒子,遊離タンパク質を主体とする白濁した分散液となる。

 第3-5章では生豆乳と豆乳中のoil body, タンパク質の性質とそれらの相互作用について調べた。 生豆乳中でタンパク質は静電相互作用によりoil bodyに結合しているが,加熱するとoil bodyの性質はほとんど変わらないが, タンパク質は変性し,oil bodyから解離した。 さらに,(-)電荷表面を持つ安定な可溶性タンパク質とタンパク質粒子を形成する。 タンパク質粒子は両親媒性の構造を持つと推定された。

 第6章では豆乳中各成分:oil body, タンパク質粒子,可溶性タンパク質の湯葉形成における役割をそれぞれ調べた。 湯葉のnetwork形成にはタンパク質粒子が最も重要であり,次に可溶性タンパク質のa'とaサブユニットが関与することを明らかにした。 Oil bodyと他の可溶性タンバク質等は形成される湯葉networkに包まれる形で取り込まれると考えられる。 この構造は第8章の走査型電子顕微鏡写真で明らかにされる。

 第7章では調製される湯葉成分の変化のメカニズムが粒子の拡散理論で解明できることを明らかにした。 加熱蒸発により表面では粒子の濃縮が起こり,この濃度勾配により粒子は下に拡散しようとする。 Oil bodyはコロイドで大きいので,拡散が遅く,濃縮されたもののほとんどが湯葉膜に取り込まれるため各湯葉の脂質濃度はほぼ同じになる。 一方,糖質や可溶性タンパク質は分子で小さいため濃縮と同時に拡散し,豆乳濃度は徐々に上がる。 そこで,同じな時間間隔で湯葉を取ると糖質とタンパク質の含量が徐々に上がることになる。

 第8章は湯葉の形成メカニズムについて考察した。 (1) 湯葉の形成:加熱により,表面蒸発と対流が起こる。 蒸発により表面粒子は濃縮される;対流により表面粒子は中央に集まることになる; そこで,湯葉膜は豆乳表面の中央から生成し,徐々に大きくなる;同時に厚くなる。 (2) 湯葉形成時の粒子の並び方:蒸発面にタンパク質粒子(あるいは濃縮されたa'とa)の疎水性部分が気相に向き, 親水性部分は液相に向いて並ぶ。 (3) 湯葉の構造:湯葉表面には緻密networkができるが,裏面は大きな包みをもつnetworkとなる。 これは「湯葉生成は蒸発面で起こる」の理論で説明できる。 表面皮膜が形成される時は,蒸発面が広く多数の小蒸発面ができ,緻密なnetworkを形成する; 被膜の下側では上の皮膜のため水蒸気が抜けにくく,大きな水蒸気の気泡が形成され,その蒸発面で形成されるため大きな包みをもつnetworkとなる。

 以上,本研究では,大豆から豆乳そしてそれら成分が湯葉形成にどのように関わるかについて明らかにし,湯葉形成のメカニズムを提案した。 この湯葉形成のメカニズムを利用して,様々な油脂や機能性成分と大豆ミール(有効利用にもなる)から様々な湯葉様食品の製造が可能になる。 また,湯葉組織を制御することも可能である。