氏 名 イ ジェミン
李  在民
本籍(国籍) 大韓民国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第494号
学位授与年月日 平成22年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 リンドウの葯培養と香気成分に関する育種学的研究
( Studies on anther culture and volatile compounds of gentian )
論文の内容の要旨

 リンドウ( Gentiana triflora、G. scabra )は日本固有の花卉品目であるが 自殖弱勢が強く遺伝的固定が困難であり、優良品種開発や作出したF1品種の劣化が問題となっている。 優良なF1品種を育成するためには純系の両親を得ることが不可欠である。 また、リンドウは人間にとって不快な香気成分を放出する植物であり、そのことが需要拡大の上で問題となっている。 本研究は品種開発におけるこれらの問題点を解決するための基礎的知見を得るために、 効率的な葯培養法の開発による純系の作出およびリンドウの香気成分の分析を行なった。

 効率的な葯培養系の開発のため、54の品種・系統を用い、遺伝子型の影響、葯培養前処理としての温度処理条件、 二層培地の効果について検討した。 その結果、胚形成能は遺伝子型に大きく依存していることが明らかになり、 これまで得られてない品種・系統から葯培養由来の再生植物体を得ることが出来た。 一方、培養条件としては2日間の低温処理が有効であり、特に二層培地は固形培地より7倍胚形成率が向上し、 二層培地の有効性が明らかとなった。葯培養由来の再生植物体の倍数性は半数体、二倍体、三倍体であり、それらの80%が三倍体であった。

 リンドウの花の香気成分を明らかにするため、HS-SPME/GC-MSによるリンドウの香気成分の分析を行った。 リンドウは開花1日目から香気成分を放出し、開花ステージが進むとともに放出量が増加し開花後3日目に最大となり5日目には減少した。 また、放出の日変化を調査したところ、一日中香気成分を放出し、夜にピークとなることが明らかとなった。 13の品種・系統の香気成分を分析した結果、98の成分が同定され、検出された香気成分は遺伝子型によって大きな変異性があった。 G. scabra やそれを片親とした品種からは種特異的な香気成分と考えられるlilac aldehydeが検出された。 主成分分析を行った結果、同種に属する系統はグループとしてのまとまりを示した。 また、官能的に臭いが強いと感じる'安代の夏'ではheptanol、2-methylbutanoic acid、 benzaldehyde、 anisoleなどが高い濃度で含まれ、 これらの化合物の中で2-methylbutanoic aicdがリンドウ特有の不快な香気成分の一つである可能性が示唆された。

 リンドウの香気成分を放出する花器官を同定するため、G. triflora '安代の夏'とG. scabra '安代のさわ風'を用いて 花弁とpetal tubeに分けて香気分析を行った結果、両種においてpetal tubeで放出される成分数・ピーク面積が多く、 リンドウの不快な香気成分の一つと推測される2-methylbutanoic acidおよび G. scabra 特異なlilac aldehydeは petal tubeから放出されることが明らかとなった。 香気成分の遺伝様式を調べるために G. trifloraG. scabra を親とし、F1、 F2集団ならびにF1G. triflora を戻し交雑したBC1集団を用いて分析を行なった。 F1においては検出された成分数やピーク面積が両親より減少したが、両親では検出されなかった2-butanolが検出された。 F2集団およびBC1集団においては成分数・ピーク面積ともに変異したが、両親でみられた成分が検出されなかったり、 両親とF1では検出されなかった成分がF2集団では9種、 BC1集団では6種見い出されたが、香気成分の遺伝様式を解明するには至らなかった。 その原因として香気成分は複雑な合成系をもつため遺伝的に複雑であること、今回用いた植物が実生2年目で幼弱であったこと、 分析した時期が通常の開花期と異なる冬期で温室栽培のものであったこと等が考えられる。