i 2009連合農学研究科博士後期課程 連研第488号
氏 名 にし しげのり
西 繁典
本籍(国籍) 愛知県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第488号
学位授与年月日 平成22年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 植物ポリフェノールによるメタボリックシンドローム抑制機構に関する研究
( Study on metabolic syndrome control mechanism by plant polyphenol )
論文の内容の要旨

 高脂肪食餌と同時にシーベリー葉ポリフェノール(SBLPP)飲料,シーベリー果実ポリフェノール(SBFPP)飲料及び, 小豆種子ポリフェノール(APP)飲料を与えた雄マウスの体重は,コントロールよりも有意に低く,特に腹部の脂肪重量は顕著に低かった. また,SBLPP,SBFPP,APP飲料を与えた雄マウスの脂肪酸β酸化酵素であるacyl-CoA oxidase およびmedium-chain acyl-CoA dehydrogenaseの遺伝子発現量は有意に増加し, SBLPP,SBFPP飲料を与えた雄マウスではそれらの転写因子であるPPARαの遺伝子発現量が増加していた. また,SBLPP飲料を与えた雄マウスでは脂質合成酵素であるacetyl-CoA carboxylaseとその転写因子である SREBP1の遺伝子発現量が有意に減少しており,脂質合成が抑制されたと推定した. In vitro実験により,SBLPP,SBFPP及びAPPが膵リパーゼ活性を濃度依存的に抑制することが示され, そのIC50はそれぞれ4.5 ppm,64.5 ppm,38.0 ppmを示し,糞中に含まれる総脂質量も上昇傾向または有意な上昇が認められた. これらの結果より,長期間,高脂肪食餌と同時にSBLPP,SBFPP及びAPP飲料を雄マウスに与えると, 肝臓における脂肪酸β酸化酵素の遺伝子発現が促進されて脂質代謝促進が起こると共に,膵リパーゼ活性を抑制することにより, 体内への脂肪輸送が低下して,糞中に脂肪が排泄され,体脂肪蓄積が抑制されたと推定し, これらに共通するPP成分はカテキン類とその重合体であるプロアントシアニジンであるのでこれらの作用であると推定した. また,SBFPP飲料を与えた雄マウスでは,血中のコレステロール濃度がコントロールよりも有意に低く, 糞中の胆汁酸量及び肝臓での胆汁酸の増加及び肝臓での胆汁酸合成の律速酵素であるcholesterol 7α hydroxylase 及び その転写因子であるLXRαやLRH1の遺伝子発現量が有意に増加しており,胆汁酸合成が促進することにより血中コレステロール濃度が低下したと推定した.

 高コレステロール食餌とともにAPP及び小豆の加工食品である羊かんを与えたところ血中のコレステロール濃度が コントロールと比較して有意に低く,これはnon-HDLコレステロール濃度の減少によることが明らかとなった. また,1日あたりの糞中へのコレステロール排泄量の増加や,APP濃度に依存的なコレステロールミセルの形成阻害作用が認められた一方で, コレステロール合成に関係する遺伝子の発現量に対する影響が認められなかったことから, APPはコレステロールの体内への吸収を抑制することにより血中のコレステロール濃度を低下させることが明らかとなった.

 続いて,SBLPPとAPPによる血糖値上昇抑制作用とそのメカニズムについて検討した. In vitro 試験において,SBLPP及びAPPは添加濃度に依存してα-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ活性を抑制した. また,SBLPPのLH-20カラム溶出画分(SBLPP-E,SBLPP-M,SBLPP-A)及びAPPのLH-20カラム溶出画分(APP-E,APP-M)の中でも, SBLPP-M,SBLPP-Aおよび,APP-Mといったオリゴマー型ポリフェノールを多く含む画分が, α-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ活性を抑制し,特にSBLPP-Aが強い抑制能を有することを明らかとした. また,SBLPP,SBLPP-M及びSBLPP-A添加時のα-グルコシダーゼ反応速度を測定すると,Km値は一定であったのに対し, 無添加時のVmaxがSBLPP,SBLPP-M及びSBLPP-A添加時よりも高くなっており, SBLPP,SBLPP-M及びSBLPP-Aのα-グルコシダーゼの阻害様式が非競合阻害であることが明らかとなった. また,SBLPP及びAPPをマウスに経口単回投与して,その後,デンプン,ショ糖をそれぞれ与えると, それぞれのマウス群の血中グルコース濃度はコントロール群に比べ有意に低い値を示したが, グルコースを与えた場合に有意差は認められなかった. SBLPP-E,SBLPP-M,SBLPP-Aの各亜画分をゾンデで単回投与して,ショ糖を与えると,SBLPP-M,SBLPP-Aを与えた マウス群の血中グルコース濃度はコントロール群に比べ有意に低い値を示した. これらの結果は,SBLPP及びAPPによる血糖値上昇抑制作用は,主にオリゴマー型PPの糖分解酵素の活性抑制作用に起因することが明らかとなった.

 以上のことから,SBLPP,SBFPP及びAPPは酵素活性の抑制や生体内での脂質代謝を改善し,メタボリックシンドローム予防に効果的な食品成分であることが明らかとなった.