i 2009連合農学研究科博士後期課程 連研第487号
氏 名 さいとう ゆうすけ
齋藤 優介
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第487号
学位授与年月日 平成22年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 豆類種子ポリフェノールの特性解明と代謝経路に関する研究
( Characterization and Biosynthesis Regulation of Polyphenol in Legumes seed )
論文の内容の要旨

 豆類種子にはポリフェノール類が含まれていることが知られ、その機能性が注目されている。 本研究では、豆類種子ポリフェノールの特性を比較、検討することを目的として行った。 外国産のものも含め33の異なる種や品種の豆類種子から、同一条件でポリフェノールを抽出し、ポリフェノールの含量や組成、 抗酸化活性などの食品機能性について検討した。 ヒヨコマメやインゲンマメ「雪手亡」、アズキ「ホッカイシロショウズ」などの豆類種子は、 ポリフェノール含量は少なく(1mg/g seed以下)、その一方で、 ベニバナインゲン(黒花豆、大黒花芸豆)やアズキ「エリモショウズ」「TOACH-SCGray-G1」、ササゲは 多くのポリフェノールを含有していた。 豆類ポリフェノールを単量体型および重合体型ポリフェノールに分け、その組成を検討したところ、 黒花豆やフェイジョン、アズキ(一部の品種を除く)、コクリョクトウなどは重合体型ポリフェノールの割合が多かったが、 「雪手亡」やエンドウは重合体ポリフェノールをほとんど有していなかった。

 アズキ種子に含まれる重合体型ポリフェノールの構造を検討したところ、 末端のカテキンにエピカテキンが重合している構造をしていることが推測され、 少なくとも11のカテキン類が重合しているプロシアニジンの存在が確認された。

 豆類種子ポリフェノールの食品機能性を検討したところ、豆類種子は抗酸化活性を有し、 それはポリフェノール含有量と高い正の相関が見られた。 また、豆類種子ポリフェノールの中には、糖分解酵素の活性を抑制するものが見られ、 その効果は重合体ポリフェノールに起因するものだった。 アズキ種子から調整した単量体型および重合体型ポリフェノールをマウスに投与し、 糖投与後の血中グルコース濃度を検討したところ、重合体型ポリフェノールは糖摂取後の血中グルコース濃度上昇を抑制したが、 単量体型ポリフェノールはその作用は見られなかった。

 これらの結果から、豆類種子ポリフェノールは抗酸化活性作用を有し、 さらに重合体型ポリフェノールによる糖分解酵素活性が消化管内で抑制されることによって食後血糖値の上昇が抑制される効果があることが示され、 豆類種子は糖尿病や肥満に効果のある食材であると考えられた。

 同じ種の豆類において、品種が異なる場合、ポリフェノールの含量や組成が大きく異なり、 例えば同じアズキの「エリモショウズ」と「ホッカイシロショウズ」では顕著な違いが見られた。 このことから、種子が登熟する過程でポリフェノール合成が制御されていることが考えられたことから、 登熟中のアズキ種子4品種において、ポリフェノール含量や組成、ポリフェノール生合成に関与する酵素をコードする遺伝子発現を検討し、 登熟時期や品種間で比較した。

 「エリモショウズ」「TOACH-SCGray-G1」は登熟中にポリフェノールを蓄積していき、開花後30-35日頃まで増加した。 登熟初期より高重合体型ポリフェノールは蓄積し、単量体型ポリフェノールは比較的後期に蓄積していった。 「十系38号」は重合体型ポリフェノールの割合は登熟が進むにつれ減少し、 「ホッカイシロショウズ」は重合体型ポリフェノールをほとんど蓄積しなかった。

ポリフェノール蓄積とポリフェノール合成系遺伝子発現量の関係を見出そうと、 アズキ登熟種子において、それらのmRNA発現量を比較検討した。 多くの場合、ポリフェノール合成に関与する酵素をコードする遺伝子は登熟初期に発現が多く、 登熟が進むにつれて発現量は減少していった。 「エリモショウズ」と「TOACH-SCGray-G1」において、登熟種子での合成系酵素の遺伝子発現に大きな差は見られず、 いずれの酵素も登熟初期において十分量が合成されていると推測された。 一方、「十系38号」は4CLやCHIが、「ホッカイシロショウズ」はCHSやF3'H、DFRの遺伝子発現量が「エリモショウズ」などと比較すると低かった。 また、アズキプロシアニジンの主要構成成分であるエピカテキンの生合成に関与するANSおよびANRの登熟初期の種子において発現量を検討したところ、 重合体ポリフェノールの少ない「十系38号」ではANSが、「ホッカイシロショウズ」はANR遺伝子の発現量が他の2品種より少なかった。 これらの品種ではエピカテキンが十分に合成されず、プロシアニジンが蓄積されないことが推測された。 したがって、ポリフェノール含量・組成の品種間差の要因となる酵素(遺伝子)は、品種によってそれぞれ異なっていることが示唆された。