氏 名 すずき せいこ
鈴木 聖子
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第481号
学位授与年月日 平成21年9月30日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 寒冷圏生命システム学専攻
学位論文題目 高齢者ケア施設におけるハリナシミツバチプロポリスの活用に関する研究
( Utility of propolis from a stingless honeybee Melipona beecheii in elderly nursing home )
論文の内容の要旨

 本論文「高齢者ケア施設におけるハリナシミツバチプロポリスの活用に関する研究」は、 第Ⅰ章と第Ⅱ章で構成されている。 第1章は、『ハリナシミツバチプロポリスが施設高齢者の免疫機能に及ぼす影響』の研究であり、 施設に入居している高齢者を対象としたおよそ4ケ月に及ぶハリナシミツバチプロポリスの効果評価に関する継続研究である。 第Ⅱ章は『ハリナシミツバチプロポリスが高齢者施設職員のストレスに及ぼす影響』の研究であり、 認知症高齢者施設で働く介護職員を対象としたおよそ1ヶ月の継続研究である。

 第1章の目的は、高齢者に対するハリナシミツバチプロポリスの免疫賦活作用を検討することである。 施設に入居している高齢者を対象に、研究Ⅰと研究Ⅱを設定し、4ケ月に及ぶ継続研究を行った。 研究Ⅰでは、特別養護老人ホームに入居中の34人の高齢者を対象として、プロポリス群21人、備長炭群8人、 コントロール群5人の3群を形成した。 高齢者の自助努力を必要としないように、それぞれ、対象者の居室のベッドそばに、 ハリナシミツバチプロポリスの塊を吊るす(プロポリス群)、備長炭の塊を吊るす(備長炭群)、 何も設置しない(コントロール群)とした。 そして、ハリナシミツバチプロポリスの塊が発する臭気を自然に吸入することで、高齢者にどのような効果があるのかについての研究、 すなわちハリナシミツバチプロポリスの免疫賦活作用を検討することとした。 方法として、ハリナシミツバチプロポリス及び備長炭の臭気の吸入前と2ケ月後の高齢者のNK(natural killer)細胞活性値とリンパ球の推移を検討した。

 その結果は、リンパ球についての有意な推移は認められなかったが、プロポリス群のみ、 ハリナシミツバチプロポリス設置後のNK細胞活性値が基準値内に有意に推移していた。 このことは、高齢者に対するハリナシミツバチプロポリスの免疫賦活作用が示唆され、 高齢者施設の課題とされている感染症予防への寄与が期待された。 研究Ⅱでは、研究Ⅰの対象者の中から26人に継続して協力が得られた。 その26人について、研究1から継続してハリナシミツバチプロポリスを設置したプロポリス継続群9人、研究1ではプロポリス群であったが、 研究Ⅱではハリナシミツバチプロポリスを除去したプロポリス除去群10人及び、 研究1では備長炭であったが研究Ⅱではハリナシミツバチプロポリスを設置した群(炭-プロポリス群)7人を設定し、 研究1と同様の手順で16人に設置し、残りの10人については研究Ⅰのハリナシミツバチプロポリス除去後、特に条件を加えなかった。 そして研究Ⅰに続いて、その推移を検討した。  結果は、3群ともに有意な効果は認められなかったが、研究Ⅰで、NK細胞活性値が基準値外であったプロポリス継続群の NK細胞活性値の基準値内移行者がみられ、研究Ⅱにおいてもハリナシミツバチプリポリスの免疫賦活効果が示唆された。

 第Ⅱ章では、認知症高齢者のケアにあたる介護職員の職場環境にハリナシミツバチプロポリスはどのような形で利用可能であるのかという 視点から研究対象を介護職員とする継続的な研究を進めた。 具体的には、プロポリスのストレス緩和効果に着目し、認知症対応型高齢者施設(以下グループホーム)に勤務する 介護職員14人を対象とする研究である。 対象施設のグループホームは、同じ法人が経営する隣接の2ケ所(A棟・B棟)である。 方法は、ハリナシミツバチプロポリスとセイヨウミツバチプロポリスの水蒸気蒸留物規定量をそれぞれ終日噴霧し、 介護職員の自然吸入による効果の推移を継続的に日数を区切ってⅠ期からⅢ期にわけて行った研究である。 Ⅰ期は、連続する6日間とし、特別な介入を行わず普段の勤務どおりとし、基準値を得るための測定に当てた。 続くⅡ期は連続する6日間を設定しA棟にハリナシミツバチプロポリス、B棟にセイヨウミツバチプロポリスの噴霧装置を設置した。 Ⅱ期終了後、2週間の間隔を置いた。そして、Ⅲ期としてA・B棟同様のエタノールの噴霧装置を対象群として設置した。 効果測定は、生理的な指標として血圧、脈拍を、ストレスの把握として口腔乾燥の関連についての観点から唾液湿潤度の測定を継続して行った。 心理的な尺度として「疲労感の自覚症状(質問紙は3群で形成され、Ⅰ群は、頭が重い、あくびが出るなどのねむけとだるさ10項目、 Ⅱ群は、考えがまとまらない、気が散るなど注意集中の困難10項目、 Ⅲ群は頭が痛い、肩がこるなど身体各部の違和感10項目である)」の推移を継続して測定した。 その結果、生理的な指標である血圧、脈拍、唾液についての有意な効果は認められなかった。 しかし、ハリナシミツバチプロポリスの設置は、ねむけとだるさ、注意集中の困難の領域における介護職員の 疲労感を有意に低減するという効果が示され、高齢者と同様に、介護職員に対してもその有効性が示唆された。 セイヨウミツバチプロポリスについての有意な効果は示されなかったが、疲労感の平均値は、 Ⅰ期よりも低下しておりハリナシミツバチプロポリスとセイヨウミツバチプロポリスがもたらす効果は、 程度の違いはあるものの疲労感の低減についての効果は期待できる。 高齢者と介護職員に対して、昆虫生産物であるプロポリスの初めての効果評価を、 自助努力を必要としない吸入という方法を用いて行ったが、両者共に効果が示されたことは、 今後高齢者施設におけるプロポリスの応用可能性が示唆された。 その意味するところは、高齢者の感染症の軽減に影響する可能性が考えられること、 さらに職員に対しては、疲労感の軽減への影響が示されたことである。

 したがって、今後、ハリナシミツバチプロポリス及びセイヨウミツバチプロポリスのもつ臭い成分の分析とヒトへの機能向上を検証していくことが極めて重要ではないかと考えられる。

 上記の研究により、昆虫生産物のハリナシミツバチプロポリスを活用することで高齢者施設における 感染予防や介護職員のストレス緩和という効果が期待される結果を得ることができた。 さらに今後の日本における超高齢者社会の到来に向けての継続研究が求められる。