氏 名 すがわら けい
菅原 敬
本籍(国籍) 山形県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第480号
学位授与年月日 平成21年9月25日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 山形県における花き菌類病害の診断・同定と減化学薬剤防除に関する研究
( Studies on the diagnosis and identification of new fungal diseases of the ornamental plants occurred in Yamagata prefecture,and the attempts of low chemical input control methods against some soil-borne their diseases on the sandy soil )
論文の内容の要旨

 山形県内で発生した国内未報告の花き類の菌類病害について,病徴や発生状況を調査し診断を行うとともに, 分離菌株の形態的特徴,培養特性および分子生物学的手法により病原菌の同定を行った. その結果,県内において初発生を確認した未報告病害は,16科,22種の植物に38件であり,うち新病害は32件,6件が病原追加となった. 全体的には Colletotrichum,Botrytis,Sclerotinia 属など多犯性の菌類による病害が多い傾向が見られた. このうち鎌形分生胞子を形成する Colletotrichum 属菌は4植物から分離され,クリスマスローズ,アルメリア, イソトマからの分離菌は分生胞子の形態から C. truncatum と判断されたが, rDNA-ITS領域の系統分析で C. dematium または C. truncatum と近縁と考えられた. 花弁に発生する病害は,初秋~晩秋期の寡日照と多雨が原因で灰色かび病が多い傾向があったが, 今回のストックとトルコギキョウの花弁の炭疽病は9~10月の中秋期に発生し,これまでの事例とは異なった. また,アルストロメリアの根茎腐敗症状から分離された Pythium 属菌は, P. helicoides,P. myriotylium と同定され, 両者は40℃でも生育可能な高温性の菌であったことから,今後は,山形県においても夏期の高温性の病原にも注意する必要がある.

 以上のように本県では,多様な花き菌類病害が発生していることが明らかとなったが,診断・同定に必要な図版等の情報はほとんどない. そこで,現場において迅速かつ正確な診断を行うため,県内に発生した上記の新病害を含む病害虫や生理的障害等の事例を収集し, 図鑑的に編集して山形県の農業情報システム上で公開するサイトを構築した. 現在,掲載した事例は180件で,うち3分の2が病害となっている.

 次に,山形県で栽培されている主要花き類のうち,ストックとトルコギキョウの土壌病害について環境負荷軽減の観点から土壌還元法を検討した. 土壌還元法は透水性が極めて良好で,保水性が劣る砂丘未成熟土からなる砂丘畑は効果が低いと考えられたが, 標準的な有機物の投入量100kg/aで、酸化還元電位が-300mv付近まで低下した. しかし,酸化還元電位の推移は,普通畑の例とは異なり,低下後短期間で上昇する傾向が見られた. このことから砂丘畑では処理直後からの3日間が重要で,その間の条件が本法の成否を左右すると判断した. そこで,処理時の潅水量について検討した結果,砂丘土壌では普通畑の2倍の200mmを目安にする必要があると判断された. また,地温については,普通畑では十分とされる30℃でも明確な効果は得られなかった. そこで,ストック萎凋病菌汚染土壌を用い,土壌還元法の効果的な実施時期を検討した結果,6月中旬以降の処理で高い防除効果が見られた. このときの最高地温は35℃を確保でき,40℃を上回った日も見られたことから, 山形県庄内地方の砂丘畑では土壌還元処理と太陽熱の効果が期待できる6月中旬から9月末の期間に行うことが望ましいと考えられた. さらに,土壌還元法の不安定要因である水分の保持を保障するため,有機物混和後の土壌鎮圧とハウス裾へのポリビニルの埋設処理を行った. その結果,両処理を組み合わせるとハウスの側部でも還元化が促進され防除効果も高くなった. しかし,現場での普及を考慮すると,砂丘畑で安定的な土壌還元法を実施するには有機物混和後の土壌鎮圧が必要であると思われた. また,土壌還元法で用いる米ぬかは約2%の窒素を含むことからその分の化学肥料が節約できる可能性がある. そこで,処理後の施肥条件を検討したところ,土壌還元法により0.4kg/a相当の窒素肥料が削減できることが明らかとなった. なお,土壌還元法ではストック萎凋病,トルコギキョウ株腐病には化学薬剤と同等の防除効果が見られたが, 最近問題となっているトルコギキョウ青かび根腐病には効果は認められなかった.

 前述のように,現在,全国各地でトルコギキョウ青かび根腐病( Penicillium sp.)が多発しており, 発生生態や病原菌の種の同定などが未解決である. そこで,本病の病徴,分離菌の培養特性,罹病部位での感染,伸展等を観察し,さらに分子生物学的手法を用い病原菌を分類・同定した. その結果,本病菌は主根と側根の境にできる間隙から侵入し,発病に至ること, 各種特性およびrDNA-ITS領域の系統解析の結果から, Penicillium pinopholum と同定された. さらに,本病に対する有効な防除法を探るため,庄内地方で栽培されているトルコギキョウ81品種を用いて感受性の差を調査したところ, 品種間に明確な差が見られることが明らかとなった. 以上から,本病の防除には抵抗性品種の導入を図り,連作を避けることが有効であると思われた.