氏 名 よしなり おりえ
吉成 織恵
本籍(国籍) 福島県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第479号
学位授与年月日 平成21年9月25日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 南瓜に含まれる高血圧・糖尿病改善機能物質の探索とその作用解析
( Investigation of active compounds from pumpkin useful for improvement of hypertension and diabetes,and their action mechanism. )
論文の内容の要旨

 本研究は、野菜の中で高血圧降下作用を有するものとしてアンギオテンシンⅠ変換酵素(ACE)阻害率を指標にスクリーニングし、 阻害率の高い南瓜に的を絞ることとした。 in vivo での検討は高血圧自然発症ラット(SHR)を用い、3段階の濃度の南瓜エキスを投与した結果、 濃度依存的に血圧降下作用が認められた。 また収縮期血圧(SBP)を症状別に分けて単回投与を行ったところ、正常群では投与後も低下が見られず一定血圧を保っているのに対して、 症状が悪化している程、つまり空腹時血圧が高い群ほど、サンプルの投与により低下度合いは大きく、 その効果は2-4時間続き6時間でも低下傾向がうかがえた。 続いて1週間連続投与の検討では、SBP、拡張期血圧(DBP)ともに南瓜エキス給与群で低下し、 腎臓のACE活性は有意な低下を示した。このことより高血圧降下の要因のひとつは、 南瓜エキスによる腎臓でのACE活性の低下にあることが示唆された。 そこで次にACE阻害活性を有する物質の探索を行った。 南瓜熱水抽出のDOWEXカラム吸着画分を分取HPLCで精製し、強いACE阻害活性を示す画分を得た。 LC/MS、アミノ酸分析の結果から効果成分、化合物Ⅰはニコチアナミンと同定された。

 さらに南瓜の機能性を検討する目的で、急激な増加を見せている糖尿病に着目し、 その抑制効果について非肥満型糖尿病モデルGKラットを用いて検討した。 その結果、耐糖能試験(OGTT)では対照群に比べ南瓜エキス給与群において有意な上昇抑制が見られ、糖尿病改善能を有することが示唆された。 そこで南瓜熱メタノール抽出物をシリカゲルカラム、分取HPLCで分画し、 得られた化合物Ⅱ、ⅢについてNMR、FAB-MS等によるスペクトル分析を行った結果、 Ⅱ、Ⅲはニコチン酸(NA)とトリゴネリン(TRG)と同定された。 また熱水抽出物のDOWEX 50W吸着画分を分取HPLC等で精製し、得られた化合物Ⅳについて各種スペクトル分析を行った結果、 ピログルタミン酸(P)と同定された。

 NA とTRGの効果の検討には、GKラット、KK-Ay マウスを用いた。 GKラットによるOGTTにおいてはNA給与(NA)群で改善は見られなかったが、TRG給与(TRG)群では血糖値の上昇に抑制が見られ、 また血清インスリン値は対照(CON)群で有意な高値を示したが、TRGやNA群ではCON群より低い値を示し、インスリン抵抗性の改善が推察された。 肝臓の脂肪酸合成酵素(FAS)活性はCON群に比べTRG、NA群において有意な低下または低下傾向を、 脂肪酸 酸化の助長に関わるカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT)活性は有意な上昇または上昇傾向を示した。 これらの結果からTRG、NAによるFAS活性の抑制、CPTの活性化が糖尿病の亢進抑制に強く関わっていることが示唆された。 一方DNAマイクロアレイ解析によりTRG群における糖尿病改善効果を検討したところ、 グルコース6フォスファターゼ(G6pc)、フォークヘッド転写因子(Foxo1)、肝細胞核因子4 (Hnf4α) 等の遺伝子発現が低下しており、 TRGによる糖代謝の制御がインスリン抵抗性の改善と強く関連していることが支持された。 KK-Ay マウスによる検討においては、飼育4週目にみられたCON群の高い空腹時血糖がTRG、NA群では低く維持されていた。 またOGTTにおける血糖値もTRG、NA給与において上昇に抑制が見られた。

 南瓜から単離同定したもうひとつの物質PについてもGKラット、KK-Ay マウスにおいて糖尿病マーカーや血清、肝臓脂質濃度を指標に検討した。 GKラットによる検討では食餌摂取量に有意な差はなかったが、体重増加量はCON群に比して上昇の抑制が見られた。 解剖後採取した精巣周囲脂肪量がCON群よりもP群で少ない事から、体重差には脂肪量の差が反映されていることが示唆された。 空腹時血糖値に差は見られなかったが、随時血糖値ではP群において飼育開始時に比べて3、5週目に有意な低下を示した。 OGTTにおける糖負荷60分後の血糖値でもCON群に比べてP群が有意な低下を示し、耐糖能改善機能を有する事が示唆された。 肝臓のDNAマイクロアレイ解析による遺伝子発現の比較、糖代謝に関わる酵素活性の結果から、 糖新生系酵素G6pcと解糖系酵素グルコキナーゼ(Gck)の発現抑制が耐糖能改善作用に関わっていることが推察された。 KK-Ay マウスによる検討においては、飼育4週目に見られたCON群における空腹時血糖値の上昇がP群においては低く抑制され、 随時血糖値は2、3週目でCON群より低い傾向を示した。 OGTTにおける血糖値もCON群に比してP群が常に低値を示した。 Pによる肝臓の糖代謝酵素制御が糖尿病亢進抑制の一因になっていることが推察された。