氏 名 ささき かずや
佐々木 一也
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第477号
学位授与年月日 平成21年9月25日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 共同的な林野管理の展開と持続への条件に関する研究
( Studies on Development of communal forest management and the necessary conditions for sustainability. )
論文の内容の要旨

 森林のもつ公益的機能の発揮のため,また持続的な森林経営のために, 各地域における森林の保全・管理が積み重ねられていくことが重要であり,その実現に向けて共同化の方向性が模索されている。 本論文は,共同的な林野管理が「森林を適正に整備及び保全」していくうえで機能しうるか否かについて, 4地域の事例を対象に検証し,一連の考察を通じて,共同的な林野管理を指向するうえでの条件設定を行うことを課題としている。

 本論文は次のように展開する。 まず,林野を含む地域の資源を共同的に管理するという考え方を理解するために地域共同管理論を取り上げ, その基本的考え方や抱える課題の確認を行う(第1章)。 次に,林野管理に関する共同性を考えるうえできわめて重要な位置にある入会林野について,その歴史と現状および展望を整理する。 また,現代ではその入会林野と切り離せないコモンズについて言及し,捉えるべき視点の整理と林野共同管理との関わりについて考察する(第2章)。 そのうえで,現実の共同的林野管理の地域事例として4つの事例を取り上げ,整理・分析・考察を行い(第3章~第6章), 最後に総括として検討結果をまとめている。

 第1章では,地域共同管理論を中心とする先行研究の分析を通じて,地域共同管理が住民, 住民組織および自治体(行政)の相互協力によって成り立っていることがあらためて明らかになった。 また,地域共同管理の課題として次の4点が整理された ―― ①管理概念の明確化,②新たな共同性の確立,③主体の持続性,④分権化と資源共同管理との関わり。 さらに,地域共同管理の視点から森林を捉えるなかで,伝統的な森林資源管理を現代の要請のもとに地域の視点から再構成し, 多様な主体が関わりながら地域社会全体で森林を管理していく体制・仕組みがつくられる必要性が確認された。

 第2章では,入会林野がもっている多様な機能を見直し,そして認め,地域全体であるいは地域を超えて管理・利用するとともに, かかる制度の見直しと整備を行うことの必要性が明らかになった。 また,コモンズ(コモンズ論)も含め,伝統的な考え方の枠から踏み出して捉えることが求められていることが確認された。

 第3章から第6章で取り上げた共同的林野管理に関する地域事例の整理・分析から,それぞれ明らかになった点等は次のとおりである。

(1) 岩手県陸前高田市矢作町では,かつて住民の生活基盤であった財産区有林が財政運営の悪化を主な背景として市有林に移管された。 現在,森林整備の水準は以前と同程度に維持されているが,旧財産区有林の利用自体は落ち込みをみせている。 そのなかで,地域が受け入れた都会の大学生の林業体験が定着をみて,旧財産区有林を含めた地域森林資源の有効活用策への手がかりを得ている。

(2) 同一関市大東町では,市町村合併を機に,町内共有林の運営組織を整理・統合し地域の森林資源の管理体制を整備する動きがみられ, 関係者の意識の高まりがみられる。 住民を対象に行ったアンケート調査結果には,森林のもつ公益的機能への関心の高さが表れており, また,調査で取り上げた共有林組合のなかには,森林がもつ保健休養の機能にも着目しながら共有林野の利活用策を模索する動きがみられるものもある。

(3) 同川井村では,国有林を含む広大な牧野の入会的な放牧利用に支えられながら,村の主要産業である畜産(肉用牛生産)が成り立ってきた。 現在,担い手問題とそれに伴う利用規模の維持,ひいては3,000haを超える放牧林野の維持管理と, それに密接に関わる林・畜産振興が大きな課題となっている。 村はこの先市町村合併を予定しており,それを機とする新たな施策展開への期待もみられる。

(4) 愛媛県旧久万町では,古くに造成され成長をとげた地域森林資源の担い手問題に直面するなかで,第3セクターが設立された。 所有の枠を離れて,町内森林所有者の所有森林の整備を第3セクターが担い,そのことを通じて地域森林資源の維持管理が図られてきている。 この第3セクターは,設立当時,非森林所有者を含む293名の農林家等が株式総数の約4割を所有した。 地域の森林を保全・整備していくことの<自覚>を背景に,「所有」と「利用」を超えた, 町(行政)と地元住民の相互理解・相互協力によって実現している一つの「共同」のかたちが認められる。

 以上を集約し,本論文では"共同的に,地域内の林野を関わりのある者が継続して, 目的に沿って有効に利用できる適切な状態に維持・改良する"ことを「共同的林野管理」とする理解に立ち, 設定した課題に対して,次のように答えている。共同的な林野管理は「地域の森林を適正に整備・保全」していくうえで有効な対応形態となりうる。 しかしそこには,地域ごとに具体的な形は違いながらも必要な条件が伴わなければならないとし, その条件を以下の3点にまとめている。 ①「所有」と「利用」を超えた「住民の自覚(意識)」,「自治体の考え方と態勢」および「中心的人物の牽引力」, ②林野(森林資源)のもつ多面的機能発揮への理解,③都市住民をはじめとする外部との連携・協力。