氏 名 せきね のぶひろ
関根 伸浩
本籍(国籍) 埼玉県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第467号
学位授与年月日 平成21年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 Dalbergia latifolia 心材の生物活性に関する研究
( Studies on bioactivity of Dalbergia latifolia heartwood )
論文の内容の要旨

 Dalbergia latifolia Roxb.は,日本では紫檀と呼ばれ,紫色の有用銘木の一つである。 耐久性にも優れていることから様々な用途に用いられている。 また,D. latifolia の心材には開環型ネオフラボノイドなどの特徴的な成分が存在することが知られている。 しかし,その生物活性に関する研究はあまりおこなわれていない。 本研究は, D. latifolia 心材抽出成分の抗蟻・抗菌活性について研究をおこなったものである。

 第2章では,D. latifolia 心材抽出物と単離成分の抗蟻・抗菌活性を調べた。 心材のヘキサン・酢酸エチル抽出物は,顕著な殺蟻・摂食阻害活性と木材腐朽菌に対する抗菌活性が認められ, 主要成分である開環型ネオフラボノイドのlatifolin,dalbergiphenol,4-methoxydalbergioneを活性成分として単離・同定した。 その3成分の中では,含有量はlatifolinが最も高く,続いて4-methoxydalbergione,dalbergiphenolの順となった。 生物活性においては,latifolinは高い殺蟻・摂食阻害活性とカワラタケ( Trametes versicolor )に対する高い抗菌活性が認められた。 Dalbergiphenolは摂食阻害活性,オオウズラタケ( Fomitopusis palustris ),Rhizopus oryzaeCladosporium cladosporioides に 対する抗菌活性が認められた。 4-methoxydalbergioneは摂食阻害活性とカワラタケに対する抗菌活性が認められた。 これらの構造を比較するとB環オルト位の水酸基の有無およびA環のキノン構造の存在が生物活性発現の特異性に影響を及ぼしていた。 このように,D. latifolia は心材抽出成分の多様化およびネオフラボノイドの部分構造の変化によって 生物に対する多様な防御作用を生み出していると推測された。

 第3章では,D. latifolia 心材の主要成分であり,高い生物活性を示したlatifolinのメチル化・アセチル化誘導体を調製し, latifolinの構造と生物活性の関係について調べた。 抗蟻活性については,殺蟻活性はlatifolinと比べて5位がメチル化された5-O -methyllatifolinの活性は変わらなかったが, 2'位がメチル化された2'-O -methyllatifolin,5,2'位がメチル化されたlatifolin dimethyl ether,5, 2'位がアセチル化されたlatifolin diacetateの活性は2倍に増加し,5位の-OH基がより殺蟻活性に関与していた。 摂食量は,latifolinと比べて5-O -methyllatifolin,latifolin dimethyl ether,latifolin diacetateは3倍を示し, 2'-O -methyllatifolinは2倍を示した。 やはり5位の-OH基がより摂食阻害活性に関与していた。 また,latifolin dimethyl etherとlatifolin diacetateの摂食量に増加がみられるにも関わらず, 殺蟻活性は試験開始から7日目まで低い値を示し,その後増加することが観察された。 これは,これらの誘導体が,シロアリ体内で再び活性化すると推測された。 抗菌活性については,latifolinは木材腐朽菌に対して高い活性を示していたが, 2'-O -methyllatifolin,5-O -methyllatifolin,latifolin dimethyl ether, latifolin diacetateなどのすべての誘導体では活性が認められなくなった。 したがって,5位と2'位の-OH基がlatifolinの高い活性に関与していた。 これらの結果から,抗蟻活性に対しては,A環の5位の-OH基がより作用しており, 木材腐朽菌への抗菌活性に対しては,A,B環の5位と2'位の両方の-OH基が作用していると考えられた。

 第4章では,酢酸エチル抽出物の着色物質の生物活性とその性状を調べた。 着色物質は紫色を呈し,UV-Vis分析では可視領域の560nm付近に特徴的な最大吸収が認められた。 Py-GC/MS分析では着色物質の分解物の1つとしてlatifolinが認められた。 また,GPC分析では着色物質は700付近および1400付近に分子量分布を示した。 これらのことから,紫色を示す着色物質はlatifolin関連の重合体であると推測された。 生物活性については,抗蟻・抗菌活性のいずれも低いことが示された。 着色物質の性状と生物活性から,latifolinなどのネオフラボノイドの重合は,それらの生物活性を低下させると推測された。

 以上のことから,D. latifolia 心材の生物活性は, latifolinに代表される開環型ネオフラボノイドが多様な防御作用を生み出していることが明らかとなった。 また,開環型ネオフラボノイドの構造と生物活性の相関について新たな知見を得ることができた。