氏 名 さいとう ともこ
齊藤 朋子
本籍(国籍) 神奈川県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第464号
学位授与年月日 平成21年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 フリーバーンにおけるフィードステーションを利用した牛の排泄場所制御に関する研究
( Control of cattle defecation in deep free barn system using feeding station )
論文の内容の要旨

 牛を放し飼いにするタイプの牛舎の一つであるフリーバーンは、 起立や横臥時の行動に妨害となる構造物がないため、牛の行動的自由度が大きく、家畜福祉の点から優れている牛舎形式と考えられる。 また、フリーストール牛舎に比べ肢蹄の疾病率も少ない点が長所としてあげられる。 しかし短所として、横臥場所と排泄場所が区分されていないため牛が横臥する休息エリアに排泄物が蓄積し、 それが牛体の汚れの原因となり、さらに乳房炎発症の原因ともなることも知られている。 そのため一般的な対策として、牛の飼養密度を下げるか、または休息エリアの除糞と充分な敷料投入という対策がとられている。

 牛は排泄場所を選ばない動物とされており、これまで犬猫のようなトイレのしつけは考えられてこなかった。 本研究は牛がフリーバーンの休息エリアで排泄しないような行動的制御ができないか挑戦したものである。 乳牛は起立直後に排泄することが多いことが知られている。 そこで本研究では、牛が起立した直後に休息エリアから出てフイードステーション(FS)に進入するように習慣づけることによって、 休息エリアでの排泄を減少させることを考えた。 そこでまず、起立直後の牛を速やかにFSに進入させる方法の検討を行なった。 なお、本実験に入る前に、牛の起立を自動的に検知し、その検知した情報を無線でパソコンに送信する起立検知機の開発を行なった。

 実験1では、オペラント条件づけの間隔強化スケジュールにおける制限時間の有効性について検討した。 起立してからFSに進入し、配合飼料を得られるまでの時間に60分または10分の制限時間を設定し、その効果を比較した。 もし牛が制限時間を学習できれば、制限時間10分の方が起立後のFS進入時間は速くなると考えたのである。 しかし結果は、制限時間を60分と長くしたほうが1日のFS進入回数が多く、また起立後5分以内のFS進入回数も多くなった。 また、1日のFS進入回数が多いほど起立後5分以内のFS進入回数も多くなる関係が見出された。

 実験2では、前の実験で1日のFS進入回数が多いほど起立後5分以内のFS進入回数も多くなることが 示唆されたことより制限時間は必要ないと考え、制限時間を設けない起立後給餌(起立後初回のFS進入に対して 配合飼料を給与する)の有効性を検討することにした。 その結果、起立後給餌のFS進入回数は、実験1の制限時間60分に比べ、多い傾向が示された。 さらに起立後5分以内のFS進入回数に関しては、起立後給餌のほうが制限時間60分より有意(p<0.05)に多かった。 このことより、起立後FS進入までの制限時間の設定は無意味であるばかりでなく、 むしろマイナス要因になることが明らかとなった。 また、起立後5分以内のFS進入を増加させるためには、起立後初回の進入で確実に 配合飼料を採食できる状況をつくることが重要であることも明らかになった。

 実験3では、実験1と実験2で利用した起立検知機を使用しなくても、牛が起立後にFSに進入する方法について検討した。 その方法とは、牛がFSで採食してから60分以上経過していたら、その時のFS進入に対して 配合飼料を給与するという方法(採食60分経過給餌)である。 この採食60分経過給餌において、前述の起立後給餌より採食回数、起立後5分以内のFS進入回数ともに 有意(p<0.05)に多くなるという結果が得られた。 このことから、採食60分経過給餌は、起立後の牛を速やかにFSに進入させる方法として最も有効で、 さらに起立検知機を用いない点において、より実用的な方法であると考えられた。

 さらに、上記三つの実験すべてで、FSを利用すると休息エリアの排泄が有意(p<0.05)に減少することが確認できた。 もちろん、実験3の採食60分経過給餌でも休息エリアの排泄は減少しており、この方法の優位性が明らかとなった。

 最後に、採食60分経過給餌で得られた休息エリアの排泄の減少した数値をもとに、 酪農家の敷料削減による経済的効果と敷料交換頻度の削減効果を試算した。 その結果、経費は牛1頭あたり1年間で約3万円の節減となり、敷料の交換頻度は半分以下(40%)になることが示唆された。

 以上のことから、本研究で開発したFSを利用した採食60分経過給餌は、 フリーバーンの休息エリアでの排泄を減少させる方法として有効であること、 また敷料の経費や牛舎清掃作業の労力を削減する実用的な手法であること、そして将来普及の可能性もあることが示唆された。