氏 名 はまと もえぎ
濱戸 もえぎ
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第463号
学位授与年月日 平成21年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 飼料用トウモロコシ栽培における家畜排せつ物堆肥の最適施用量に関する研究
( Optimum amount of livestock excrement compost application on forage corn( Zea mays L.) cultivation )
論文の内容の要旨

 本研究は、岩手県北部のアロフェン質黒ボク土における飼料用トウモロコシ( Zea mays L.)の栽培において、 畜産経営内から排出される家畜排せつ物を有効に利用することを目的として、家畜排せつ物堆肥の窒素肥効の特性、 トウモロコシ成分および土壌成分への影響および環境影響に配慮した施用量について検討を加えたものである。

1.堆肥化過程の異なる2種類の家畜排せつ物堆肥で、飼料用トウモロコシ早生品種パイオニア106(36B08)への窒素肥効を比較した。 1つは家畜排せつ物を約1ヶ月間堆肥舎に堆積した未熟堆肥、1つは同素材にオガクズを混合し 施設で12日間の撹幹・通気後に約3ヶ月堆積した促成堆肥である。 未熟堆肥は10t、30t、50t ha-1の増施で乾物収量、CP含有率、窒素吸収量は上昇した。 窒素利用率は平均33.4%で、増施で低下した。 促成堆肥は増施でも乾物収量、窒素吸収量は増加せず、値は化学肥料の窒素無施用区と類似した。 窒素利用率は負となり、堆肥化過程でアンモニア態窒素と易分解の有機態窒素がアンモニア揮散損失したためと考えられた。

2.飼料用トウモロコシ中生品種スノーデント108(DK542)へ未熟堆肥を3年間多量連用した試験を行い、 作物の収量と品質および土壌成分から施用量について検討を行った。 未熟堆肥50t ha-1+化学肥料の施用区を対照区とし、未熟堆肥のみを100t、200t、400t ha-1施用した3区の合計4区とした。 施用成分は年によって変化したが、未熟堆肥の施用で乾物収量とCP含有率は上昇し、 推定した窒素成分利用率から岩手県における最大施用量50t ha-1以上の施用が可能であると考えられた。 多量施用により作物体の硝酸態窒素含有率は増加したが、黄熟期の刈り取りでは0.2%を超えなかった。 土壌では成分蓄積が認められたが過剰レベルではなく、値は施用量200t ha-1までは対照区と有意差はなかった。 以上から、未熟堆肥施用は土壌改良と化学肥料代替に有効であり、 トウモロコシ栽培において50t ha-1を超える量の施用の可能であると示唆された。

3.トウモロコシの栽培跡地土壌を用いて、未熟堆肥の多量連用が岩手県北部に分布するアロフェン質黒ボク土の 土壌化学性へ及ぼす影響について検討した。 その結果、200t ha-1以下の施用では土壌中のK2OやP2O5含有量に明らかな上昇は認められず、 400t ha-1施用で明らかに値は高くなった。 このほかに土壌中のK2O、P2O5、MgO及び有機物含有量増加や燐酸吸収係数の低下に効果がある。 しかし、200t ha-1以下の施用では土壌中のK2OやP2O5の明らかな成分集積は認められず、 MgOおよび有機物含有量を増加させ、燐酸吸収係数を下げる結果となった。 未熟堆肥の施用は活性アルミニウムが多く弱酸的性質を持つアロフェン質黒ボク土では、土壌改良に有効に働く結果となり、 トウモロコシの栽培基準の堆肥の施用量については併用化学肥料量をあわせて成分を有効利用しながら、 環境への負荷を最小限にするための検討が必要と考えられた。

4.早生品種パイオニア106(36B08)と中生品種スノーデント108(DK542)の栽培試験をもとに、 乾物収量に対する窒素の必要量、化学肥料および未熟堆肥の併用時における窒素供給量を推定した。 また、トウモロコシ栽培における環境負荷ガス発生量を推定した。 これらを用いて、環境負荷を軽減しながら、乾物収量を確保し、最大限に未熟堆肥を利用した化学肥料との組合せを検討した。 土壌からの窒素供給量を考えず、栽培基準と同様の窒素利用率を40から50%と設定した場合、 この設定において環境負荷ガスの発生量を抑えるような施肥を考慮すると、 トウモロコシ乾物収量を16tから18t ha-1得るためには化学肥料115㎏と未熟堆肥70tの組合せが考えられた。

 以上のことから、未熟堆肥は雑草種子や悪臭などの問題はあるが、施用条件が整えば窒素肥効の点からは未熟堆肥の施用が有効と考えられ、 現行の施用基準の2倍量の施用が可能であることが示唆された。