氏 名 シン ホウメイ
申 宝明
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第460号
学位授与年月日 平成21年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 レーザ式作物列センサによるトラクタ用作業機のうね自動追従システムの開発に関する研究
( Development of automatic guidance system for tractor-mounted implements using laser crop row sensor )
論文の内容の要旨

 本研究は,畑作の播種・移植,中耕除草作業時のトラクタ作業者によるうね合わせの省力化と 高精度自動化を実現するために,その核となるレーザ式作物列センサの開発とそれを利用したトラクタ用作業機の うね自動追従システムの開発を目的とした。以下にその要約を述べる。

畑作の播種・移植,中耕除草時のうね合わせ作業の現状とその精度

 大型畑作地帯でのトラクタ用作業機のうね合わせ作業の現状を把握するために, 帯広市近郊の5農場で播種・移植および中耕除草作業時のうね合わせ作業の現状とその精度を調査し, 開発するトラクタ用作業機のうね自動追従システムに要求される応答性などを検討した。
 うね合わせの作業状態は,播種・移植作業の場合,トラクタ作業者が後方の作業機の状態を確認する割合は16%以下であったが, 中耕除草作業では27%となり,後方確認割合が高くなる結果となった。 また,うね合わせ精度は,播種・移植作業の場合,往復作業の隣接行程のうね間の変動は最大7.5~11.5 cmであった。 また,中耕除草作業の場合,除草刃の作用位置は作物列の中心から離れ,その最大変動は8.2 cmに達し,作物に機械的な損傷を与える場合も観察された。
 さらに,圃場調査から求めた本追従システムに要求される応答性はトラクタ作業の高速化を考え慣行の2倍である作業速度2.0 m/sの場合, 作業機をうねに自動追従させるための油圧制御装置の制御速度は,播種・移植作業の場合が6.6 cm/sであり, 中耕除草作業の場合は10 cm/sになると推定された。

レーザ式作物列センサの開発とその位置検出精度の評価

 開発するうね自動追従システムの核となるレーザ式作物列センサは,主にレーザ変位センサ, 6面体ポリゴンミラー,可変速モータ,ロータリエンコーダおよびコンピュータで構成される。 作物列センサはトラクタ用作業機に取り付けられ,ポリゴンミラーを回転させ, レーザ変位センサから発するレーザ光の向きを下方に変え,進行方向に対して横方向の土壌表面や作物の高さの断面形状を計測する。 その検出精度は,室内実験と圃場実験で評価した。
 室内実験の場合,センサは作物モデルの水平位置をセンサの鉛直下方中心から左右±180 mmの範囲で計測可能であり, 播種・移植機で利用されるラインマーカ跡を想定したV字モデルと中耕除草作業を想定した作物モデルの場合の回帰直線の 決定係数はいずれのセンサの設定高さでも0.999以上であった。 また,圃場でトラクタの作業速度を0.5~1.5 m/sに設定した場合, V字溝のラインマーカ跡ではセンサが検出した位置の誤差のRMSは2.0 cm以下であり, 大豆の作物列では誤差のRMSが2.9 cm以下となり,開発したレーザ式作物列センサの有効性が圃場実験でも精度的に確認できた。

油圧制御機構の開発とうね自動追従システムの制御精度の評価

 開発した油圧制御装置はトラクタのロワーリンクと作業機のロワーリンクヒッチの間に取り付けられ, 油圧シリンダによって作業機を左右に移動させるものであり,主に油圧スライド装置, 油圧ポンプ,電磁弁,計測制御用コンピュータおよび制御ソフトウェアで構成される。 本追従システムの制御特性の評価は,室内実験と圃場実験で実施した。
 室内実験のステップ応答の場合,本追従システムはPID制御方式を採用しており,ステップ距離が大きいほど, 油圧シリンダの移動速度は速くなり,応答性が向上することを確認できた。 また,周波数応答特性の結果,ゲイン-3 dB以内の最大応答周波数は0.25 Hzであり, 本追従システムは左右に変化する制御目標に対して十分制御できることが判明した。 つぎに,圃場実験では,トラクタの作業速度を0.5~1.5 m/s に設定し,ラインマーカ跡を制御目標とした場合, 本システムの追従制御の誤差のRMSは2.0 cm以下であり,また作物列の追従実験の場合の誤差のRMSも2.5 cm以内であったことから, 本追従システムは作物列を確実に検出し,トラクタ用作業機をその制御目標に自動制御することが精度的にも十分可能であることが判明した。

 以上のように,本研究は,畑作のうね合わせ作業の自動化を目的にレーザ式作物列センサと油圧制御装置を 利用したトラクタ用作業機のうね自動追従システムの開発を目的として実施したものである。 独自に開発したレーザ式作物列センサの計測精度やうね自動追従システムの基本的な制御特性は, 室内実験や圃場実験でその有効性が明らかになり,今後のトラクタ作業の省力化や高精度高速化に貢献できる基本的な技術と結論づけられた。