氏 名 ワン アイド
王  愛徳
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第453号
学位授与年月日 平成21年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 Studies on the molecular mechanism of the difference of storage ability among apple cultivars
( リンゴ果実のライプニング進行に関わる品種間差の分子機構について )
論文の内容の要旨

 リンゴ果実ライプニング時のエチレン生成におけるシステム 1 からシステム 2 への 転移時に特異的に発現する 1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)合成酵素 3 ( MdACS3a )について、 種々のリンゴ品種でゲノム DNA と cDNA の塩基配列を検討した。 その結果、1 つの SNPs が見つかり、その変異はアミノ酸 289 位の Gly をVal に置換していた。 この 289 位 Gly は、ACC合成酵素の活性中心に位置する。 そこで、大腸菌において MdACS3a-G289V を発現させて、その酵素活性を測定したところ、活性は全く認められなかった。 一方、cDNA 解析から MdACS3a の転写そのものが認められないナル型 acs3a の存在も明らかにされた。 ノーザンおよび RT-PCR 解析から acs3a/ACS3a-G289V の品種 'こうこう' や 'きたろう' は MdACS3a/ACS3a-G289V である品種 'こうたろう' や 'ガラ' に比べてエチレン生成が少なく、日持ち性が優れていた。 ACS3a/acs3a 型の品種おいてもエチレン発生量は少なく、日持ち性が高い品種であった。 以上のことから ACS3a 対立遺伝子型から 'ふじ' よりも 'こうこう' が高い日持ち性を有するものと判断された。 さらに、ACS3a-G289V の SNPs に連鎖する SSR (Simple Sequence Repeat) が見出され、 これを DNA マーカーとして数種のリンゴ品種における ACS3a-G289V の存在様式を調査した結果、 ACS3a がリンゴの日持ち性を規定する重要因子であることが判明した。

 エチレンシグナルはその受容体から数種のキナーゼを介した伝達機構を通して転写因子である ERF(Ethylene Response Factor)に到達する。 リンゴ果実ライプニング時に機能する ERF についてはこれまで報告がなかった。 本研究から2 の MdEFR が 'ゴールデンデリシャス' のライプニング果実より単離された。 それらの予想アミノ酸配列の保存モチーフから MdERF1 と MdERF2 はそれぞれアラビドプシスのグループVIIとIXに属するものであると判定された。 MdEFR1 はライプニング時以外の果実でも低い発現があったが、ライプニング時には発現が高まった。 一方、MdERF2 はライプニング時のみで発現していた。 エチレンアンタゴニスト1-MCP により、その発現は抑制されたことから、エチレンの正の制御下に存在していた。 事実、エチレン生成の低い品種ではそれらの発現量の低かった。

 ライプニング進行に関する気象温度の影響について 'ふじ' と '早生ふじ'を使用して研究した。 エチレン生成酵素遺伝子( MdACS1, MdACO1 )、エチレンレセプター遺伝子( MdETR1, MdERS1, MdERS2 ) さらに、細胞壁分解酵素( MdPG1 )の発現プロファイリングは'ふじ'と'早生ふじ'では大きく異なった。 イチゴ果実のライプニング関連ヒートショックタンパク質(HSP)のホモログ遺伝子 MdHSP17.5 は 'ひろさきふじ' では 収穫前の樹上果で発現していたが、'ふじ' では収穫後でのみ発現が見られた。 1-MCP 処理でも発現が抑制されないことから、エチレンと独立した経路で機能する MdHSP17.5 を通して、 収穫前の気象温度がライプニング進行速度に関連するものと示唆された。 MdACS3a、MdERFs, MdHSP17.5 のライプニング分子制御メカニズムについて考察された。