氏 名 | おざき たく 尾? 拓 |
本籍(国籍) | 青森県 |
学位の種類 | 博士 (学術) | 学位記番号 | 連研 第450号 |
学位授与年月日 | 平成21年3月23日 | 学位授与の要件 | 学位規則第5条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 生物資源科学専攻 | ||
学位論文題目 | ミトコンドリアカルパインの同定と機能解析 ( Identification and characterization of mitochondrial calpains ) |
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論文の内容の要旨 | |||
カルパインは、活性にCa2+を必要とする細胞内システインプロテアーゼで、 細胞質内に存在し、基質を限定分解することで様々な細胞機能を調節する。 カルパインは、一部の酵母や細菌など単細胞生物から多細胞生物までほとんどの生物種に存在し、 多種多様なサブクラスからなるスーパーファミリーを形成する。 哺乳類では発現様式の異なる14遺伝子が存在し、それらの分子種では、活性ドメイン(ドメインII)は良く保存されているものの、 それ以外は多様なドメインからなる個性的な構造を有している。 カルパインは細胞遊走、シグナルトランスダクション、アポトーシス、遺伝子発現および細胞周期など種々の細胞機能を調節している。 カルパインは細胞質のみに存在すると広く考えられていたが、ミトコンドリアにもカルパイン様の活性があるという報告がいくつかある。 ミトコンドリアは、細胞におけるエネルギー代謝の主役として知られている。 一方、ミトコンドリアはシトクロムc、AIF(Apoptosis-inducing factor)、 EndoGなどのアポトーシス誘導因子を膜間スペースに抱え込み、それらを細胞質へ遊離させることで、細胞死に導くという重要な機能を有している。 この細胞の生と死を司るミトコンドリアに存在するカルパインが、どのような機能を有しているのか、非常に興味深い。 そこで本研究では、ミトコンドリアに存在するカルパイン分子を同定し、その性質と機能を調べることを目的とした。 第2章では、ミトコンドリアカルパインは膜間スペースに多く存在すること、 μ-カルパインドメインIIIおよびIV抗体に染まること、活性化におけるCa2+要求性が細胞質μ-カルパインと似ていること、 組織普遍的にミトコンドリアに局在することなど、種々の性質が明らかとなった。 さらにミトコンドリアμ-カルパインと細胞質μ-カルパインは、いくつか異なった性質を有しているという重要な知見を得た。 ミトコンドリアμ-カルパインは細胞質μ-カルパインと比較し、最適pHが低く、キモスタチンに対し感受性が高く、 ザイモグラフィーにおいて移動度が大きいといった違いがあった。 ミトコンドリアカルパインの機能を調べたところ、アポトーシス誘導因子であるAIFを限定分解することで、 内膜からそれを遊離させることから、ミトコンドリアを介したアポトーシスシグナルを制御していることが解った。 カルパインの内在性阻害因子であるカルパスタチンが、ミトコンドリアには局在しないことも明らかとなり、 ミトコンドリアには細胞質とは異なる独自のカルパイン活性制御機構が存在することが考えられた。 そこで第3章では、ミトコンドリアに局在するカルパインの制御因子を同定し、その機能を解明することを目的とした。 ラット肝臓ミトコンドリアからミトコンドリアμ-カルパインを部分精製し、 その部分精製標品に含まれるタンパク質をMALDI-TOFMSおよびPMF(Peptide mass fingerprinting)法により同定した。 その中でプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)に属するERp57分子シャペロンが候補因子として同定された。 ERp57はミトコンドリアμ-カルパインと相互作用し、その安定化に関与していることが示された。 また、ERp57結合型ミトコンドリアμ-カルパインがAIFを限定分解することを明らかにした。 ミトコンドリアにはカルパイン分子が2種類存在し、その1種はミトコンドリアμ-カルパインであり、 もう1種は未知のカルパインであることが示された(第3章より)。 第4章では、この未知のミトコンドリアカルパインを同定し、その機能を解析することを目的とした。 カラムクロマトグラフィーおよび免疫沈降法により未知のミトコンドリアカルパインを精製し、 nanoLC-MS/MS解析およびデータベース検索により未知のカルパインを同定した。 またそれと相互作用する因子を同定し、その相互作用を検証した。 その結果、未知のカルパインはm-カルパインと相同性があること、カゼインザイモグラフィーにおいて、 細胞質μ-およびm-カルパインとは移動度が異なること、ミトコンドリアm-カルパインの活性化に必要なCa2+濃度は、 細胞質m-カルパインと類似していること、ミトコンドリア外膜に特に多く存在すること、 HSP70ファミリーに属するGRP75と相互作用していること、Ca2+依存的にVDACを限定分解することなどが明らかとなった。 以上の全ての結果から、ミトコンドリアにはミトコンドリアμ-カルパインとミトコンドリアm-カルパインが存在し、 各々AIFおよびVDACの限定分解を介して、ミトコンドリアアポトーシスシグナルを制御するという重要な役割を担っていることが明らかとなった。 |