氏 名 あさい のぶはる
浅井 信晴
本籍(国籍) 埼玉県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第448号
学位授与年月日 平成21年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 脳由来神経栄養因子による視細胞保護機構の解析
( Analysis of mechanism for protecting retinal photoreceptor cells by brain-derived neurotrophic factor )
論文の内容の要旨

 先進諸国における失明原因上位である加齢黄斑変性症などでは視細胞死が起こり、 最終的には失明に至るが、これまでに効果的な治療法は確立されていない。 一度、変性や脱落した視細胞の機能は取り戻すことができないため、視細胞死を抑制、遅延させること、 さらには視細胞の機能を再生させるような治療法が望まれている。 そんな中、神経栄養因子群が神経細胞死を抑制するという機能から、治療応用への期待が寄せられている。 中でも脳由来神経栄養因子(BDNF)は様々な細胞死を抑制することが報告されている因子であり、 既に網膜治療応用へのアプローチが多数なされている。 BDNFがその効果を発揮するには、受容体であるTrkBが必要である。 しかしながら通常の視細胞はTrkBを発現しておらず、そのBDNFのもたらす視細胞保護作用の機構は不明である。 このことからBDNFのもたらす視細胞保護効果は、解剖学的に視細胞に接している細胞を介して、 あるいはパラクリン作用が可能な因子などを介して誘導されていることを推測させる。 これらのことから、本研究では、BDNFの視細胞保護機構の解明を目的とした。

 本研究において、傷害を受けた視細胞でもTrkB発現は起こらないことを発見し、 直接的にBDNFが視細胞に作用しないことを示した。 また視細胞変性過程において、網膜の主要なグリアであるミューラー細胞がTrkB発現を変化させることを発見した。 この結果より、BDNFのもたらす視細胞保護にはミューラー細胞が重要な役割を担っており、 BDNFに刺激され視細胞保護因子を放出するものと考えられた。 そこで、BDNF刺激でミューラー細胞から放出されるタンパク質の解析を計画した。 しかしながら、ミューラー細胞のみを単離することが困難であることや、培養ミューラー細胞では、 通常網膜で発揮されているミューラー細胞の機能が損なわれてしまう可能性があるという問題点が挙げられた。 これらのことから、本研究は網膜器官培養を計画した。 器官培養法は、培養した組織が生体内と同様な分化、正常な生理機能や組織特異性の維持をしながら培養を行う方法である。 しかしながら、細胞培養と比べて、高度に分化し、多層状の組織である網膜は従来の静的な培養では、 不十分な栄養と酸素供給のため、その維持は困難であった。 そこで、本研究では透析膜を利用した新規の器官培養系を確立させた。 その新規網膜器官培養系を用いて、培地中に放出されるタンパク質のうちBDNF投与で増加したものの同定を行った。 同定されたタンパク質の中には、抗酸化タンパク質や14-3-3ファミリータンパク質などの、 視細胞保護因子として働く可能性のある分子が存在していた。