氏 名 | あいうち だいご 相内 大吾 |
本籍(国籍) | 北海道 |
学位の種類 | 博士 (農学) | 学位記番号 | 連研 第443号 |
学位授与年月日 | 平成21年3月23日 | 学位授与の要件 | 学位規則第5条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 生物生産科学専攻 | ||
学位論文題目 | Breeding of entomopathogenic fungus Lecanicillium spp.by protoplast fusion and potentials of hybrid strains as biological control agents ( プロトプラスト融合による昆虫寄生性 Lecanicillium 属菌類の育種と生物防除資材としての融合株の可能性 ) |
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論文の内容の要旨 | |||
現在日本では昆虫寄生性 Lecanicillium 属菌を用いた微生物防除資材として オランダのKoppert社からアブラムシ防除用にVertalec、コナジラミおよびアザミウマ防除用にMycotalが販売されている。 しかし、これらの製剤の効果を発揮するには非常に高い湿度条件を長時間必要とする。 一方、Koike et al. (2004)によって分離されたB-2系統は低湿度条件下でも葉面上で生存できることが報告されている。 そこで、本研究ではプロトプラスト融合によって高い病原性を持つ市販系統のVertalecおよびMycotalにB-2の持つ葉面での 高い生存能力を付加することでより低いレベルの湿度要求を示し、効果の持続性が高い菌株や予防的施用が可能な菌株、 またはVertalecとMycotal間の融合からアブラムシ、コナジラミ両害虫に対して高い病原性を持つ菌株を作出することを目的として行った。 また、プロトプラスト融合の遺伝的マーカーとして硝酸還元能欠損変異株を用いた。 その結果、合計174菌株の融合株を得た。 次に、この融合の結果を分子生物学的に確認するためランダムプライマーによるポリメラーゼ連鎖反応解析を行った。 バンドパターンはどちらかの親株のものに偏る傾向を示したが、供試した全ての融合株で融合もしくは組換えの形跡が検出された。 また、これらの融合株の中から目的とする両親の形質を併せ持つ株を選抜するために、 ワタアブラムシおよびオンシツコナジラミに対する病原性試験と低湿度条件下での葉面での生存能力を評価した。 その結果、ワタアブラムシに対しては43菌株がVertalecと比べて、 オンシツコナジラミに対しては37株がMycotalと比べて同等か、それを上回る病原性を示した。 また、葉面での生存能力は17菌株がB-2の値と比べ同等か、それ以上の値をしめした。 これらの結果から単純に両親の形質を併せ持つだけでなく、どの親に由来するかに関らずそれぞれの形質が 強化された融合株が存在することが明らかとなった。 これらの結果を踏まえて13菌株を微生物防除資材の有望菌株として選抜した。 さらに、融合株のコロニー形態や生育に及ぼす温度の影響、分生子形成量、分生子サイズなどの基本的性状について調査した。 その結果、約半数の融合株のコロニーは明らかに親株とは異なる形態を示した。 生育速度は融合グループごとに異なる温度反応を示し、融合株間においても多様な温度反応がみられた。 特に30℃における生育はその遺伝子型と対応しており、遺伝子型がB-2型の融合株のみ生育が可能であった。 分生子形成量においても融合株間で多様な形成量を示し、同じ親をもつ融合株間でも最大で170倍の差がみられた。 分生子サイズは激的な変化は見られなかったものの、遺伝子型に基づいて親株と比較すると全体的に大型化する傾向が見られた。 以上の結果からプロトプラスト融合の影響により選抜の調査項目である害虫に対する病原性と葉面での生存能力のみならず、 融合株の基本的性状においても多様性が増したことが明らかとなった。 最後に有望菌株を用いてオンシツコナジラミの各生育ステージ(卵、1齢幼虫、4齢幼虫、成虫)に対する病原性を評価した。 まず、卵に対する菌処理による孵化への影響は見られなかったが、孵化した幼虫の死亡率は融合株4菌株で80%を越えた。 中でも2aF1と2aF43はMycotalの半数致死濃度に比べ1オーダー低い値を示した。 また、1齢幼虫への直接接種試験を行った結果、供試した多くの菌株で卵接種による孵化幼虫死亡率に比べ半数致死濃度が高い値を示した。 4齢幼虫に対してはVertalecが最も高い死亡率を示したのに対し(65.2%)、他の菌株は11~43%となった。 成虫に対する病原性試験で、融合株4菌株が親株に比べ有意に高い死亡率を示した。 これらの結果から孵化幼虫、1齢幼虫および成虫に対しても高い防除効果を示した2aF43(Mycotal×B-2)を最終的に選抜した。 本研究において初めて硝酸還元能欠損変異株を糸状菌のプロトプラスト融合の遺伝的マーカーとして用いたが、 融合効率はこれまで報告されている栄養要求性変異株を用いたものと遜色ない結果となった。 また、融合株は目的とする形質の統合のみならず、様々な形質に関して多様性が増していることも明らかとなった。 有用菌株の選抜方法としては、調査項目に葉面での生存能力を考慮する事でより効率的に実用レベルでの使用に耐え得る菌株を選抜する事に成功した。 さらに、オンシツコナジラミ卵接種による孵化幼虫に対する影響は、1齢幼虫直接接種に比べ高い防除効果を示したことから、 オンシツコナジラミの防除は卵もしくは産卵前の予防的施用が有効的である可能性が示唆された。 このことからもオンシツコナジラミ防除において葉面での生存能力が重要な形質であると考えられる。 以上の結果からプロトプラスト融合技術は昆虫寄生性糸状菌の育種において、有用菌株の作出に非常に有効な手段であることが示された。 |