氏 名 ソウ ヨウ
曹  陽
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第442号
学位授与年月日 平成21年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 Studies on whole crop rice total mixed ration silage preparation with food by-products and its feed characteristics
( 食品残渣を利用した飼料イネ発酵TMRの調製と飼料特性に関する研究 )
論文の内容の要旨

食品残渣などの未利用資源を家畜用飼料として有効利用することが地球環境保全の立場からも注目されている。 また,日本において,荒廃が進んでいる水田の利用を図るためと飼料自給率向上のために飼料イネサイレージ(WCRS)を 家畜(牛)用飼料として利用する技術が急速に普及している。 さらには,各種食品残渣由来の粗飼料と濃厚飼料を混合して乳酸発酵させて利用する発酵TMRの調製と給与技術が開発されているが, 実用レベルでの技術までには達していないと判断される。 そこで,本研究では飼料イネと食品残渣等を活用した新しいタイプの発酵TMRの調製と発酵品質の向上, および発酵TMRを反芻家畜に給与した場合の第一胃内で消化特性,特に,消化率の改善とメタンガス生成の抑制に関する知見を得ることを目的とした。

 食品残渣と乳酸菌を利用して調製した飼料イネTMRサイレージが,発酵品質, in vitro 培養での乾物消化率,メタン生成および揮発性脂肪酸(VFA)濃度に及ぼす影響について検討した。 試験1は,トウフ粕,米ヌカおよび緑茶殻を乾物当たり10,20および30%の割合で組み合わせを変えて, 配合飼料(25%),ビートパルプ(13.5%)およびWCRS(30%)に混合し,乳酸菌(畜草1号5ppm(FM)) および付着乳酸菌事前培養液2%(FM))の添加,無添加による計20処理区の飼料イネ発酵TMRをパウチ法により調製した。 試験2は,トウフ粕,配合飼料,ビートパルプおよびWCRSをそれぞれ乾物当たり30,25,13.5および30%の割合で混合し, 乳酸菌(畜草1号5ppm(FM))と糖蜜(4%(FM))の添加および無添加の2処理とした。 試験1において,飼料イネ発酵TMRのpHは,全ての処理区で3.8以下,乳酸含量は2.72%(FM)以上の良質のサイレージに調製出来た。 また,トウフ粕を30%配合すると乳酸含量は,高くなった。 米ヌカを30%配合すると乾物消失率は高く,単位可消化乾物量当たりのメタン生成量は低くなった。 さらに,乳酸菌を添加すると,pHは低く(P < 0.05),乳酸含量と in vitro による乾物消化率は高く(P < 0.05), 単位可消化乾物量当たりのメタン生成量が低くなった(P < 0.05)。 試験2において,化学成分は処理区の間に有意差が認められなかった。 乳酸菌と糖蜜を添加すると乳酸含量は更に高くなった(P < 0.05)。 乳酸菌と糖蜜の添加は in vitro 乾物消化率を5.6%高くし,メタン放出量を2.0%減少させた。

 ヒツジを4頭用いた4 × 4のラテン方格法により,食品残渣を利用した飼料イネ発酵TMRの成分消化率, 嗜好性および第一胃内容液性状,ならびに牛における in situ 消化特性について検討した。 発酵TMRの調製に用いた飼料および試験処理は飼料イネ,市販配合飼料およびビートパルプに食品残渣であるトウフ粕, 米ぬかおよび緑茶殻をそれぞれ乾物あたり30%配合した3つ種類の試験区,および食品残渣を利用しなかった対照区を設定した。 発酵TMRのpHは,全ての処理区で4.06以下,乳酸含量は2.4%(FM)以上の良質のサイレージに調製出来た。 トウフ粕を利用したサイレージは乳酸含量が高く(P < 0.05),ヒツジに給与すると, 成分消化率が高くなる傾向を示し(P < 0.05),嗜好性も良くなった。 しかし,米ヌカおよび緑茶殻を利用したサイレージは対照区に比べてCPとEEの消化率が高くなったが,嗜好性が低下した。 第一胃内容液のpHおよびVFA総量は,処理区の間に有意差が認められなかった。 食品残渣単味の in vivo 消化率は,トウフ粕が最も高かった。 牛における in situ 培養試験により,DM,CPおよびNDFの消失率は,投入から20時間まで, 米ヌカを利用した発酵TMRが高かったが,その後,トウフ粕を利用した発酵TMRが高くなった。

 飼料イネ発酵TMRの給与が第一胃内容液性状および呼気からのメタン放出量に及ぼす影響を検討した。 試験処理は米ヌカ,市販配合飼料およびビートパルプをWCRSに配合して60日間貯蔵した発酵TMRを試験区とし, 米ヌカ,市販配合飼料およびビートパルプをヒツジに給与する直前に,WCRSに配合したフレッシュTMRを対照区とし, ヒツジを4頭用いた反転法により消化試験と呼吸試験を実施した。 給与飼料の乳酸含量は,発酵TMR7.34%(DM)とフレッシュTMR0.55%(DM)より著しく高かった(P < 0.05)。 消化試験により,フレッシュTMRに比べて,発酵TMRのCP,EE,CF,NDFおよびGEの消化率,可消化養分総量, 可消化粗タンパク質およびDEが増加した(P < 0.05)。 また,呼気試験により,発酵TMRはフレッシュTMRより一日当たりメタン放出量が25.1%減少し(P < 0.05), メタンからのエネルギー損失量を25.9%減少した(P < 0.05)。

 WRCSを用いた発酵TMRを in vitro 法により第一胃内容液で培養してメタン生成の抑制に関するメカニズムを検討した。 試験1において,乳酸添加による乳酸含量の違いが発酵TMRの in vitro メタン生成に及ぼす影響を検討した。 乳酸だけの添加では可消化乾物当たりのメタン生成量,VFAおよびプロピオン酸濃度に影響しなかったが, デンプンおよびデンプン+乳酸を添加すると,DM消化率およびVFA総量が増加し,可消化乾物当たりメタン生成量が減少した。 しかし,デンプンおよびデンプン+乳酸の添加はプロピオン酸濃度に影響しなかった。 試験2において,リン酸バッファーを利用したpHの違いが in vitro メタン生成に及ぼす影響を検討した。 その結果,6時間培養したすべての処理でメタンを検出出来なかった。 試験3において,飼料の給与前,給与後2,4時間に採取したルーメン液のpH(7.08,5.86および6.56)の違いが 発酵TMRの in vitro メタン生成に及ぼす影響を検討した。 培養開始時点のpHが 5.86および6.56とも,発酵TMRはフレッシュTMRよりメタン生成量が低くなったが(P < 0.05), 培養開始時点pHが 5.86の時,6時間培養後pHが 5.6であり,発酵TMRからプロピオン酸生成を増加させ,酢酸:プロピオン酸比が減少した。 これらの結果から,第一胃内で,発酵TMRに含んでいる乳酸からプロピオン酸を生成するとき水素を取り込み, メタン生成を抑制するには,5.6程度の低いpHが必要だと推測された。

 以上の結果から,食品残渣を利用した飼料イネ発酵TMRは反芻家畜用飼料として有益であり, 乳酸発酵を促進させて消化率と栄養価を向上させることが分かった。 また,地球温室効果ガスである第一胃からのメタンガスの生成を抑制する効果があり,そのメカニズムの一端を明らかに出来た。