氏 名 まかべ しゅうへい
真壁 周平
本籍(国籍) 宮城県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第441号
学位授与年月日 平成21年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 沖積水田土壌のケイ酸供給力と施用ケイ酸の水稲による吸収
( Silica supplying capacity of alluvial paddy soils and applied silica absorption by rice plant )
論文の内容の要旨

 ケイ酸は水稲にとって必須要素ではないが、有用要素と位置づけられている。 水稲の窒素吸収量が同じ場合、ケイ酸吸収の増加にともなって収量、病害虫抵抗性の増加、 玄米タンパク含有率の低下が認められている。 したがって、高収量、良食味、減農薬の要求を満たした水稲生産を行う上でケイ酸の果たす役割は極めて重要である。 水稲のケイ酸吸収を効率良く高めるためには、土壌のケイ酸供給力、 ケイ酸肥料の水稲による利用率に基づいたケイ酸施用を行うこと必要がある。 そこで、本研究では、日本有数の水稲生産地でかつ収量レベルの高い庄内平野を対象として、 1)土壌のケイ酸供給力の変動要因、2)ケイ酸肥料の水稲による吸収の変動要因を明らかにすることを目的として以下の検討を行った。

1.土壌のケイ酸供給力の決定要因と沖積平野のケイ酸供給力の分布
 ケイ酸供給に関係が深い土壌鉱物から庄内平野の水田土壌を検討した結果、 母材と地形面の影響を受けた粘土鉱物組成の異なる4つの土壌グループに分類された。 二三酸化物と一次鉱物組成は母材の影響を受けており、二三酸化物のうち鉄は粒径組成の影響も受けていると考えられた。 しかし、粒径組成と母材、地形の対応関係は明かでなかった。
可給態ケイ酸は粘土画分のSiO2/Al2O33比、シルトと細砂画分のCaO濃度、 Sio、Feo、Alo量との間に正の相関関係が認められ、シルトのNa2OとK2O濃度、細砂のK2O濃度、粗砂含量との間には負の相関が認められた。 また、可給態ケイ酸とSiO2/Al2O3×粘土含量、 シルトサイズのCaOおよびMgO量にはそれぞれ正の相関関係が認められたが、細砂サイズの鉱物との間には相関が認められなかった。 重回帰分析より、可給態ケイ酸の約50%がSio、Feo、SiO2/Al2O3×粘土含量により説明された。 以上から、本試験地では二三酸化物と結合したケイ酸と結晶質鉱物のうち細粒な画分に含まれる易風化性の鉱物量が、 ケイ酸の供給源として重要であること、鉱物組成が河川の上流地質や地形の影響を受ける地域のケイ酸供給力の分布は、 上流地質がケイ酸供給力に影響していることが示唆された。
 一方、水稲の茎葉ケイ酸濃度は土壌グループ内の変動が大きく、本試験で行った地形や母材から見た地域区分による 土壌のケイ酸供給力の把握では精度が不十分であった。 今後、ケイ酸供給力を変動させる土壌管理歴を含めて、グループ内での土壌のケイ酸供給力の変動要因を検討する必要があると考えられた。

2.水稲による鉱さい由来ケイ酸吸収

2-1. 土壌のケイ酸吸着能と鉱さい由来ケイ酸の挙動
 土壌によるケイ酸吸着量は、添加ケイ酸溶液の濃度が低い場合には、土壌のケイ酸溶出吸着特性値aと、 濃度が高い場合には同b/aと高い相関関係を示した。 濃度が変化した場合、吸着量とaの相関係数が低下しやすかった。 このことから土壌の吸着能の指標としてb/aが適すると考えられた。 そして、庄内平野の沖積土壌ではFeo含有量が多い土壌ほどケイ酸吸着能b/aが大きいことが明らかとなった。 また、デンプン添加はケイ酸溶出量を増加させ、結果として土壌によるケイ酸吸着量が減少し、 ケイ酸吸着能は有機物施用によって変化することが示唆された。 さらに、土壌に一度吸着されたケイ酸の-7~29 %が比較的短時間に脱着し、 脱着割合はケイ酸吸着能の大きい土壌ほど小さかった。 このことは、ケイ酸吸着能の大きい土壌では添加されたケイ酸の不可給化量が大きいことを示す。 また、ケイ酸吸着能の高い土壌では見かけの鉱さい由来ケイ酸の溶出量が小さくなり、 ケイ酸供給に対する鉱さい施用効果は土壌のケイ酸吸着能に影響されることが示された。

2-2. 水稲による鉱さい由来ケイ酸吸収の変動要因
 ポット条件では、鉱さい由来ケイ酸の水稲による利用率は水稲の生育量の変化による変動より、異なる土壌での変動が大きかった。 土壌の交換性Ca量、溶出吸着特性値b/aが大きい土壌で施用ケイ酸の利用率が低くなる傾向が認められた。 しかし、地上部乾物重と利用率には一定の関係は認められなかった。
圃場条件では地上部生育の変異が大きく、利用率を定量的に評価することはできなかった。 しかし、鉱さい施用による水稲の茎葉ケイ酸濃度変化、土壌溶液中に溶出する見かけの 鉱さい由来ケイ酸濃度は年次にかかわらず圃場間差が認められた。 鉱さい由来ケイ酸の溶脱量に圃場間差が認められたが、量的に少なく、茎葉ケイ酸濃度変化に影響しなかった。 土壌溶液中のケイ酸濃度が高い時期では、土壌溶液中の鉱さい由来ケイ酸濃度は茎葉ケイ酸濃度変化と 正の相関関係が認められる場合が多く、土壌溶液のpHおよびCa濃度、ケイ酸吸着能b/aと負の相関関係が認められた。 したがって、圃場により、土壌溶液へ鉱さい由来ケイ酸の溶出、溶出した鉱さい由来ケイ酸の土壌による不可給化が異なり、 これが原因で水稲による鉱さい由来ケイ酸の吸収に圃場間差が生じることが考えられた。 しかし、水稲による吸収が溶出、不可給化のどちらのメカニズムによって大きく影響されているかは不明であった。