氏 名 すどう れいこ
須藤 礼子
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第440号
学位授与年月日 平成21年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 盛岡市で春に飛散するイネ科花粉の草種同定に関する研究
( Identification of grass species for air-born pollen dispersing at central part of Morioka city during spring season )
論文の内容の要旨

 盛岡市で、1984年から空中飛散イネ科花粉の測定を行ってきた。 盛岡市における空中飛散イネ科花粉は4月から10月まで測定され、 イネ科花粉症が好発するのは春から初夏の寒地型イネ科植物の開花期である。 しかしイネ科花粉は、大きさが30~40μmの球形で、1個の口蓋のある花粉管口をもち、 空中飛散花粉の調査では種の同定が困難であるため、 これまで盛岡市で飛散しているイネ科花粉の種および種毎の構成割合は不明であった。 本研究は、イネ科花粉症の診断、治療に必要な盛岡市における春から初夏の空中飛散イネ科花粉飛散状況、 草種の同定及びその割合を明らかにしたものである。

 空中飛散花粉は「空中花粉測定と花粉情報標準化委員会」の合意事項により、ダーラム型花粉採集器で捕集し、 染色後、18㎜(3.24㎝2)のカバーグラス内の花粉数を計測し、測定値は個/㎝2/日で表した。 1月1日より初めて花粉を0.1個/㎝2/日以上認められた日を初観測日、 1月1日より初めて連続2日以上1個/㎝2/日以上観測された最初の日を飛散開始月、 飛散終了近くに3日間連続0が続いた最初の日を飛散終了日として集計した。 気象データは、気象統計情報データ(気象庁ホームページ)より得て、合意事項に基づいて集計した空中花粉飛散数と比較検討した。 草種の同定は、空中飛散イネ科花粉と地域のイネ科植物の花粉生産量がほぼ一致するものと仮定し、 春から初夏にかけて開花するイネ科植物の植生調査を行い、 調査日毎の開花穂数を計測したさらに植生調査で開花が確認された草種の1穂あたりの花粉数を計測し、 盛岡市中心部の単位面積(1㎡)当たりの花粉生産量および花粉生産量の推移を求めることにより間接的に、 空中飛散花粉数の草種を同定することを試みた。

 花粉症は花粉飛散開始前の季節前治療が重要である。 スギ花粉に比べ飛散数の少ないイネ科花粉は、初観測日以降、飛散開始日まで1個/㎝2/日以下の微量飛散が続き、 飛散開始日から季節前治療の開始時期の目安を得ることができなかった。 そこで1月1日より初めて連続2日以上0.3個/㎝2/日以上観測された最初の日を前開始日として加えた。 前開始日は4月1日から15日までの最高気温の積算値との相関が高く、推定も可能で季節前治療開始の目安になると考えられた。

 イネ科花粉は共通抗原性があるが、大量に飛散し飛散期間の長い花粉が当然特異的IgE抗体の陽性率も高くなる。 そこで盛岡市中心部の単位面積当たりの花粉生産量を求め草種ごとの構成割合を明らかにした。 盛岡市中心部で開花が確認されたイネ科植物は10草種で、開花穂数に1穂あたりの花粉数を掛け合わせて求めた花粉生産量では、 カモガヤ44%、オニウシノケグサ34%、ハルガヤ11%、ナガハグサ4%、その他の草種が7%であった。

 前述の研究で、単位面積当たりのイネ科植物の花粉生産量および草種割合が明らかになった。 次に、草種ごとの花粉生産量の推移が空中飛散イネ科花粉数の推移とどのように関係しているかを比較検討した。 空中飛散花粉数を植生調査日にあわせて集計し、植生調査日の花粉生産量の推移と比較すると、 両者の推移はよく一致していた。 花粉生産量から空中飛散花粉の草種を同定すると、初観測日、前開始日、飛散開始日を含む飛散初期から5月下旬まで 少量の飛散が続く時期の花粉源はハルガヤで、5月下旬から6月中旬まで最高飛散日を含む飛散のピーク期の花粉源は前半がカモガヤ、 後半がオニウシノケグサであった。 イネ科花粉症患者の発症時期は、ハルガヤの花粉生産量で構成される時期に71%が発症し、 盛岡市におけるイネ科花粉症の発症には、ハルガヤの花粉生産量が大きくかかわっていることが明らかになった。

 以上のことから、盛岡市におけるイネ科花粉症の治療は、飛散開始日以前の前開始日から開始し、 飛散のピーク時の5月末から6月中旬までに治療を軌道にのせる必要があると考えられた。 また盛岡市における花粉症診断のための抗原は第一にカモガヤを選択し、ハルガヤで補完すれば良いと考えられた。 本研究の結果から、地域のイネ科植物の花粉生産量から空中飛散イネ科花粉の草種の同定は可能であると考えられ、 各地の空中飛散イネ科花粉の花粉源の一つの同定法になると考えられた。