Escherichia coli におけるYjeQは機能未知のタンパク質である。
このYjeQをコードする遺伝子yjeQは、欠損すると著しい生育阻害が生じる、
70Sリボソームが大小のサブユニットに解離したものが蓄積する、未成熟なリボソーム(16S rRNAの前駆体)が蓄積するなどの表現型を示す。
このタンパク質の一次構造には、N末端にOligonucleotide Binding fold様モチーフ、
中心にcircularly permuted GTPase motif(cp-GTPase domain)と呼ばれるGTP加水分解モチーフ、
C末端にCys-xxxx-Cys-x-His-xxxxx-CysというZnフィンガー様モチーフの3つのモチーフが存在する。
YjeQはGTP加水分解モチーフを持つことからGTPの加水分解活性をもつ。
当研究室により、この活性がリボソーム小サブユニット(30Sサブユニット)によって活性化することが見出され、
YjeQはribosome small subunit-dependet GTPase A(RsgA)と名付けられた。
原核生物におけるGTPaseは、細胞内で分子スイッチとして非常に重要な役割を担う。
特に、リボソーム上で活性化し働く既知のGTPaseのほとんどが翻訳因子(IF-2、EF-G、EF-Tu、RF-3)であり、
これらの翻訳因子はすべてリボソーム大サブユニット(50Sサブユニット)上のGTPaseセンターによってGTP加水分解を行う。
RsgAはこれらの翻訳因子とは異なり、50Sサブユニットでは活性化されず、30Sサブユニットで活性化される初めてのタンパク質である。
RsgAはリボソーム上で何らかの重要な機能を有していることは推測されるが、依然として、
30Sサブユニットのどの部位と相互作用して活性化しているのか、また、
リボソーム上でどのような機能を果たしているのかなどは不明のままである。
本研究では、RsgAの30Sサブユニット上での相互作用部位を特定するとともに、30Sサブユニット上での機能解明を目指した。
化学修飾剤(Dimethyl sulfate、Kethoxal)を利用したフットプリント法により30Sサブユニット上のRsgA相互作用部位と
考えられる16S rRNAの塩基を特定した。
すると、GTPの加水分解アナログであるGDPNPとともにRsgAが結合した場合、
A532、A923、G1392、A1408、A1468、A1483において化学修飾の反応性が上昇し、
G530、G925、G926、G966、G790、C1054、G1338、G1405、A1413、A1493において化学修飾の反応性が低下した。
GDPとともに結合した場合は、GDPNP型のときに見られたA532、A790、A923、G925、G926、C1054、G1392、A1413、A1468、A1483での
変化がなくなり、G530、G966、G1338、G1405の反応性が低下しA1408の反応性が上昇するのみであった。
これらの塩基は30SサブユニットのAサイトとPサイト付近のmRNAの通り道に沿って存在した。
また、RsgAの結合によるAサイトやPサイト付近での構造変化が30S サブユニット上に結合していたtRNAの解離を促進し、
一方でmRNAにはほとんど影響を及ぼさず、30Sサブユニット上で共存することを明らかにした。
さらに、RsgAが結合することで30Sサブユニット上に結合しているIF3が解離しやすくなること、
30SサブユニットへのmRNAの結合を促進する機能を持つことを見出した。
30SサブユニットへのmRNA結合はIF3が結合した30Sサブユニットにおいても促進された。
これらの結果はRsgAによって30Sサブユニット上のデコーディング領域に構造変化がもたらされ、
mRNAの結合が促進されること、recyclingされてきた後のIF3が結合している30SサブユニットにおいてもIF3との結合を弱め、
mRNAが結合しやすくしている可能性を示唆する。
現在までにmRNAの結合を促進する因子は知られておらず、本研究によりRsgAが新しい翻訳開始因子としての機能を持つ可能性が示された。
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