氏 名 ヘ ショラン
何 暁嵐
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第430号
学位授与年月日 平成20年9月30日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 現代農業法人の財務管理に関する研究
( A study on financial management in agricultural corporation )
論文の内容の要旨

 本論文では、農業法人経営における財務管理について、財務管理を行う経営主体に視点を置き、 経営者が自ら実施している財務管理のあり方を明らかにする。 研究方法は、全国の農業法人を対象としたアンケート調査と大規模個別経営を対象とした事例分析によった。

序章では、農業経営の財務管理に関する先行研究を考察し、従来の研究では経営主体の視点から、 財務管理組織に着目して分析を行っている研究がほとんどみられないことを明らかにし、そこに本研究の課題を設定した。

 まず、第1章では、農業法人の経営および財務状況を整理した上で、次の2点を明らかにした。 第1点は、農業法人の財務状況、製造業に比較して収益性,効率性,安全性の面でいずれも低く、 総資本経常利益率1.1~2.0%、総資本回転率1.1~1.2回、自己資本比率9.2~9.9%等であること、 第2は、資本管理、資金管理、利益管理といった財務管理の実施水準は全体として低く、しかも売上高の大小と無関係であること、である。

 第2章では,財務管理組織に着目し、財務管理の実施状況を分析したところ、次の2点が明らかになった。 第1点は、財務管理を実施する上での利益目標が設定され、経営者管理能力が高く,しかも会計責任者を配置して、 財務管理体制を確立し、さらに財務管理システムを整備している場合には、資本管理、資金管理、利益管理の実施レベルは高いが、 財務管理体制と財務管理システムが両方とも未整備の場合は、逆に極めて低い。 第2は、財務管理体制と財務管理システムの整備の状況は売上高と関係しており、両者が整備されるに従って、売上高が拡大する。 特に、両者が整備された経営では、3億円以上の法人が半数を占めていた。

 次いで、第3章では、法人経営者が経営活動を行うにあたって、どのような財務指標を具体的に活用しているかについて、 第2章と同様に財務管理組織に着目して分析した。 さらに、財務管理組織及び財務管理活動を先端的に展開している法人についても活用している財務指標を分析した。 次の3点が明らかになった。 まず第1点は、全体としては、財務指標を利用して分析している法人は少なく、特に、比率分析指標の利用は極めて少ない。 第2点は、財務管理組織体制及び財務管理システムが整備されると、実数値分析指標はもちろんのこと、 収益性、安全性、成長性に関する指標が利用される。 第3は、財務管理を先端的に実施している経営では,多様な指標を利用して積極的に財務分析を行っていることである。

 第4章では,岩手県大規模農業法人(有)S農産を事例とし、その設立から現在までの20年間、 財務管理組織の形成、財務管理組織がいかに形成され、財務管理のあり方がどう高度化したかについて分析した。 まず、S農産の経営成長を売上高の推移によって3段階に区分した。 第Ⅰ期の「経営基盤確立期」では、基盤整備で多額の投資を行い、経営者が運転資金不足で資金繰りの調達を苦慮した。 会計担当者が不安定であり、財務管理はなく単なる事務的なことが多かった。 第Ⅱ期の「加工事業による拡張期」では、無計画な投資で巨額な累積赤字を生み出すことになり、経営立て直しを行い、 そこでは投資管理、利益管理、部門別採算が重視された。 この時期に会計業務は経理専門の次男に任せて、パソコン記帳、資金繰り計画等効率的実施的な財務管理が行われるようになった。 第Ⅲ期「組織再編による調整期」では、組織再編を行い、職能分担を明確に成文化し、管理体制を整備した。 経営者が経営管理に力を入れ、外部機関と積極的に交流し、資金繰り問題を解決した。 また、経営会議を開き詳細な経営分析を行い、それにより経営改善の課題と方向を明確にし、財務体質の改善に取り組んでいる。

 第5章は全体を総括する。要約すると、現代農業法人においては、経営者は財務管理組織を構築し、 経営管理能力特に効率主義・合理的思考の下で計数感覚を持って計画的な財務管理行動を行うこと、 さらには財務管理を専門的に行う人材を育成することが重要である。