氏 名 さわだ よしあき
澤田 義昭
本籍(国籍) 新潟県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第429号
学位授与年月日 平成20年3月31日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 光発芽種子におけるアブシジン酸の機能に関する研究
( Studies on function of abscisic acid in photoblastic seed )
論文の内容の要旨

 レタス( Lactuca sativa L. cv. Grand Rapids)種子の光発芽はフィトクロムにより制御されており、 その制御は、植物ホルモンであるジベレリン(GA)とアブシジン酸(ABA)を介することが示されてきた。 即ち、赤色光処理後、活性型GAであるGA1の内生量が増加し、さらに、ABA内生量が減少することが報告されており、 このようなフィトクロムによる両ホルモンの内生量調節が光発芽制御に重要と考えられている。 本博士論文研究では、光発芽制御におけるABAの機能を追究するために、ABA代謝酵素である9- cis -エポキシカロテノイドジオキシゲナーゼ (NCED;生合成)とABA 8'水酸化酵素(ABA8ox;不活性化)に着目し、以下の実験を行った。 まず、レタス由来の当該遺伝子ホモログ LsNCED1~4LsABA8ox1~4 の翻訳産物の機能を実証するために、 LsNCEDについては、それぞれを過剰発現させたシロイヌナズナにおけるABA内生量増加を指標にしたin vivo での機能解析を行い、 LsABA8oxについては、酵母で発現させた組換えタンパク質を用いて in vitro での変換実験を行い、 それぞれが目的酵素活性を有する可能性を示した。 次に、ABAとその代謝物の内生量の定量分析とリアルタイム定量RT-PCR(QRT-PCR)による上記8種の遺伝子の発現解析により、 レタス種子では、フィトクロムにより LsNCED2 LsNCED4 の発現が負に、 LsABA8ox4 の発現が正に制御されることを通して、ABA内生量は負に制御されることが示された。 さらに、採取した種子を胚軸側と子葉側に二分し、それぞれを試料としたABA内生量分析と上記ABA代謝酵素遺伝子の発現解析により、 ABAは子葉側よりも胚軸側の方でより多く減少すること、さらにそれには胚軸側での LsNCED2LsNCED4LsABA8ox4 の発現制御が主に関与する可能性が示された。 また、ABA内生量は、赤色光処理だけではなく外生GA1処理により発芽を誘導した場合でも減少することが示されていた。 そこで、GA1処理した種子での上記8種の遺伝子の発現を赤色光処理した場合と比較した結果、 LsNCED4 の発現の負の制御がGA1処理後のABA内生量減少に主要に関与している可能性が示された。 このことは、LsNCED4 の発現は赤色光により増加する内生GA1によって制御されるということを示唆した。 一方、 LsNCED4 の発現のフィトクロムによる負の制御は、阻害剤により内生GA増加を抑制した種子においても見られたことから、 LsNCED4 の発現のフィトクロムによる制御には、GAを介した経路だけではなく、GAを介さない経路もあることが示唆された。 それとは逆に、レタス種子では、ABA処理を行うことで赤色光処理によって誘導される発芽は抑制されることも知られていた。 そこで、ABAによるGA内生量への影響を調べるために、ABA処理した種子の全体あるいは種子を子葉部と胚軸部に切断した試料をもちいて、 GA代謝酵素遺伝子の発現解析をQRT-PCRにより行った。 その結果、ABA処理で赤色光処理による発芽が抑制されるのは、赤色光処理後の胚軸側での生合成酵素遺伝子 LsGA3ox1 の発現量の 増加と不活性化酵素遺伝子 LsGA2ox2 の発現量の減少がABA処理により一部キャンセルされ、その結果として、 内生GA1の量が発芽に十分なレベルまで増加しないことによるという可能性が示された。 このように、吸水レタス種子において、ABAとGAの内生量は光により制御される中で、それぞれ拮抗的に互いの内生量を調節しあう機構も 含まれている可能性が示唆された。

以上、本博士論文研究では、レタス種子におけるABAの内生量の光による制御機構あるいは制御部位、さらにはABAとGAとの相互作用について、 その一部を明らかにした。 本研究により得られた成果は、光発芽機構の解明研究に重要な知見を与えただけでなく、 複雑な種子発芽機構解明研究の基盤となることが期待される。