氏 名 むらかみ しょう
村上  章
本籍(国籍) 秋田県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第428号
学位授与年月日 平成20年3月21日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 汎用水田におけるダイズ多収を目指した地下水位制御の研究
(Groundwater level control scheme for higher soybean yield in multi-purpose paddy fields)
論文の内容の要旨

 本論文では,汎用水田でのダイズ多収を目指した地下水位制御のあり方とその及ぼす影響を解明すること目的としている。 その研究には、最近開発された伸縮性越流水閘を用い、生育ステージごとに簡易に地下水位を制御し研究を遂行している。 研究は、はじめに汎用水田における地下水位制御の研究を現地圃場で行い,この成果をもとにモデルを用いた栽培で行っている。 その結果以下のような貴重な知見が得られている。

1.大区画汎用圃場で伸縮性越流水閘により地下水位を制御(40cmから10cmの間で)し、 慣行的な水閘管理の圃場と比較し検討している。 伸縮水閘により地下水位を制御した圃場は、2カ年にわたり、慣行的な水閘管理圃場と比べ, 開花期以降の過湿気味なコントロールにより10~20%の増収となった。
 試験圃場,慣行圃場の違いで作付け前の土壌の化学性に大きな違いはなかった。 物理性については,2年作付け後の両圃場ともに,作土層は気相率と粗孔隙が初年目の作付け前より高く,畑地化が進み, スキ床層および心土層では大きな違いは認められなかった。

2.異なる砕土率モデルを圃場試験と同じ土使用し作製し、かつ地下水位を制御(40cmから10cmの間で)し、 ダイズの栽培試験を2カ年にわたり行っている。 その結果、砕土率80%モデルおよび砕土率30%モデルで,40~10cmという地下水位制御が一作期(約120日)にわたって可能であった。 砕土率の違いで土壌の理化学性,地温,および土壌溶液のpH,ECに大きな差異はなかった。 ただし、地表面下30cm 深のEhの値は、砕土率80%モデルに比べ、砕土率30%モデルが高く推移した。 生育初期は,砕土率80%モデルが優位に推移するが,開花期以降は,砕土率30%区が優り,収量が10%~20%多くなった。

3.全てのモデルの砕土率を80%にし,地下水位制御(制御区、40cmから10cmの間で)と地下水位を10cm(10cm区) および40cm(40cm区)に固定したモデル栽培について,生育および収量について比較検討している。 発芽は,3試験区で差異は認められず,その後の生育では,10cm区が制御区や40cm区に比べ生育が劣り,収量は最も低くなった。 制御区と40cm区では,開花前までは同様な生育状態であった。 しかし制御区は,開花期~子実肥大期の地下水位を10cmに設定したことにより葉色の停滞がみられ,40cm区より生育が劣り,減収した。 しかし,開花前までの旺盛な生育状態から10cm区のような極端な減収にはならなかった。 制御区は,直根は40cmまで認められたが,0~10cmに側根が多数存在し,40cm区とは根の生育でも相違が認められた。 40cm区では,40cmの深さまで直根が伸長し,制御区に比べ10cmより深く伸長する根が多くなった。 10cm区は,0~10cmより深く根の伸長はほとんど認められなかった。

 以上のことから,伸縮性越流水閘方式による地下水位制御により,ダイズ多収の可能性のあることが確認された。 また,地下水位を制御した条件下でも砕土率等の諸条件により,生育,収量が左右されることが解明された。