氏 名 くわばら ともこ
桑原 友子
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第427号
学位授与年月日 平成20年3月21日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 農産物及び農産廃棄物の健康機能性の解明
(Effect of farm produces and the waste products on the lipid metabolism in rats)
論文の内容の要旨

 本研究では、農産物の健康機能性について解明することを目的とした。 特に食物繊維やタンパク質、ポリフェノール(ルチン)を含んだダッタンソバスプラウトの乾燥粉末を雄性ラットに摂食させた場合、 血中のコレステロール濃度低下作用を明らかにするとともに、血漿・糞便・盲腸・肝臓の脂質レベルの分析、 脂質代謝関連遺伝子mRNA発現量を測定し、そのメカニズムの解明を試みた。 さらに、ソバスプラウトには、ビタミン、ミネラルが豊富であり、抗酸化能などの機能性ポリフェノール (ルチン、クロロゲン酸、アントシアニン、グリコシルカテキン等)を有することから、 アセトアミノフェンによる肝毒性の軽減機構の解明を行った。 抗酸化活性関連遺伝子mRNAの発現レベルの分析を行い、健康機能性のメカニズムの解明を行った。

1.食材として十勝で生産されるソバのスプラウトは、ビタミン、ミネラルが豊富であり、 さらに抗酸化能等の機能性ポリフェノール(ルチン、クロロゲン酸、アントシアニン、グリコシルカテキン等)を有することから 健康志向の高まりとともに、食材としての需要が増加している。今回、普通そば(CB)、2種類のダッタンソバ(T8, T9)のスプラウトを 摂食させたラットのコレステロール代謝について、その代謝機構を調べた。 血漿総コレステロール濃度は試験開始から7日目の時点で、対照群に比べ、 ソバスプラウト群で有意に総コレステロール濃度が低い値を示した。 試験開始28日目において、血漿総コレステロール濃度は対照群に比較して、CB>T9>T8の順に低い値を示した。 糞便中の中性ステロール量は、対照群と比較してソバスプラウトを投与した3群とも有意な差ではないが増加していた。 糞便中総胆汁酸濃度ではソバスプラウトを摂取させた3群とも有意な上昇が見られた。 盲腸内総短鎖脂肪酸濃度についても対照群に比べ、すべてのソバスプラウト群で有意に増加した。 特酢酸及び酪酸濃度の増加が著しかった。 また、肝臓のコレステロール7α水酸化酵素 mRNAレベルはソバスプラウトを投与した3群で対照群と比較して有意に増加していた。 HMG-CoA 還元酵素 mRNAレベルはT9群において対照群と比較して有意に増加していた。 以上の結果から、ソバスプラウト、特に2品種のダッタンソバスプラウトでは肝臓での胆汁酸合成を促進、 さらに盲腸内での短鎖脂肪酸増加に伴って糞便中への胆汁酸排泄を促進していることによりラットの血中総コレステロール濃度の 上昇を抑制する原因であることが明らかとなった。

2.解熱鎮痛剤として用いられるアセトアミノフェン(AAP)は過剰摂取することにより反応性に富んだ中間代謝産物を生成し 酸化傷害さらには肝臓壊死を引き起こすと考えられている。 ソバスプラウトは、機能性ポリフェノールを含有するため、高い抗酸化能をもち、生活習慣病や各種疾病の予防効果が期待できる。 しかし、AAPによる酸化障害などを軽減させるため、ソバスプラウトが生体内でどのような抗酸化作用を有するかは明らかではない。 AAPを摂取させたラットに普通ソバスプラウト(CB)、2品種のダッタンソバスプラウト(T8, T9)の乾燥粉末を投与することにより、 肝臓における抗酸化効果を過酸化物消去に関わる酵素グルタチオンレダクターゼ(GSH reducase)、 スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などのm-RNAレベルで、また還元型グルタチオン(GSH)や過酸化脂質など物質レベルで解析を行い、 その抗酸化作用機構を明らかにした。 AAP対照群において、ALT活性がすべてのソバスプラウト群と比較して有意に増加した。 肝臓GSH濃度は、AAP対照群が、CB+AAP及びT8+AAP群と比較して有意に低下していた。 GSH reductase mRNA 発現量はT9+AAP群においてAAP対照群と比較して有意に増加していた。 Mn SOD mRNA 発現量は、T8+AAP群においてAAP対照群と比較して有意に増加していた。 Cu Zn SOD mRNA 発現量は、CB+AAP群においてAAP対照群と比較して有意に増加していた。 これらの結果から普通ソバスプラウト群、2品種のダッタンソバスプラウト群はGSH reductase mRNA、 Mn SOD mRNA、Cu Zn SOD mRNA発現が増加させる傾向がみられ、抗酸化システム、解毒システムを高める可能性が示唆された。

以上の結果を総括すると、今回用いた2品種のダッタンソバスプラウトにはラットの脂質代謝改善効果及び アセトアミノフェン誘発肝毒性に対して肝毒性抑制効果及び抗酸化能を有することが明らかとなった。 これはダッタンソバスプラウトが含有するタンパク質,食物繊維,ルチンなどのポリフェノールの影響が考えられた。